葬祭扶助制度解説

▽ 概略

 葬祭扶助は『生活保護法』に定められた8つの扶助の内のひとつで、生活に困窮する者の行うべき葬祭に対する扶助の制度である。また葬祭を行うべき親族等がおらず、自身の葬祭を行うに足る財物も遺さずに死亡した者の葬祭を担う第三者がある場合にも、この制度をもって実質的費用支弁が行われる場合がある。

 生活保護法は厚生労働省の所管であるが、保護の実施は地方自治体や委託機関があたる。このため保護の対象や程度に関しても、大凡の指針はあるものの最終的には実施機関に個別の決定が委ねられている。
 平成20年度における葬祭扶助の適用件数は全国で月平均2,551件、年間総保護費は6,338,825千円となっている。これは同年度の生活保護費総額約2兆7,000億円の内、約0.235%にあたる[1]

▽ 思想

 生活保護制度は日本国憲法第25条の精神を基とし、国民の健康で文化的な最低限度の生活を保障することによって、根本的には国民の人間的尊厳を守るために定められている。然るにその一環である葬祭扶助も、葬祭が国民の健康で文化的な生活の一端を担い、またそれが国民にとって人間的尊厳に関わるものであるという理解の下に制定・運用されているといえる。もっとも、総じて具体的に保護されるべき範囲や程度については時代に即して適度を保ち続ける必要があることは言うまでもなく、随時柔軟な見直しが求められる。

 「健康で文化的な生活」とはどのような状態を言うかということについては議論もあるが、まず「健康」について例えば世界保険機関(WHO)における定義は「身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態であり、たんに病気あるいは虚弱でないことではない」とされている。生活保護の根本目的である人間的尊厳を守るという観点からすると、ここでいわれる「健康」もWHOの言う健康の定義に近い理念であると捉えるべきであろう。特にこと葬祭扶助に関しては、その保護すべきは身体的健康ではなく精神的・社会的健全性である。また制度が保護するのは被保護者の「文化的生活」であって、文化そのものではないことには留意すべきである。即ちその時代における文化的生活と言える様態や程度は社会的合意によって形成されるのであって、法の定めるところではない。このことは別の見方をすれば、葬祭文化が社会的合意を失い個人化・自由主義化するほどに葬祭扶助制度によって保護されるべき範囲は縮小するということでもあろう。

 また生活保護制度は法第4条に定められるように、原理として各国民の自助努力による生活構築を前提とした補足的なものである。従って保護は無制限に受けられるものではなく、本人の資産や能力は言うに及ばず、その困窮者に対して扶養の義務を持つ者の支援やそのほかの扶助制度等を最大限に活用してもなおかつ生活が最低限と言える水準に満たない場合にのみ適用されるものである。ただしこのことは逆に、自助努力によって最低限の生活を構築し得ない生活困窮者を扶助すべきものが扶養義務者及び公的制度に限られると解すべきではない。善意や良心による私的な相互扶助が十分に機能することで公的な生活保護制度が必要とされないことは、社会としてひとつの理想的な状態であるといえる。

< 法第18条第二項規定の特異性 >
 法第18条第二項に定められる一部の葬祭扶助制度は、全般の生活保護制度のうちで特異であるといえる。法第18条第一項規定を含め、一般に各々の扶助の効果が帰属する対象は現に生存する中で生活に困窮している者であるが、法第18条第二項に定められる扶助の効果が帰属するのは実質的に「死亡した者」である[2]という点に大きな相違が認められるためである。こう言えるのは、仮に保護の対象となるものが「葬祭を行う者の最低限度の生活」であるならば、これを保護するためには法第18条第一項規定をもってすれば足りるからである。従ってより踏み込んだ表現をするならば、「葬送の実施は葬る者だけでなく葬られる者のためにも担保されるべきである」ということであるが、とはいえ法が「死者の福祉」なるものを想定しているのかというとそうではない。あくまで民衆が社会生活をおくる上で、たとえどのような状況にあろうとも「自分が死んだ時にも人間的尊厳をもって葬られる」と信頼できることが、文化的生活の安心に資し社会的に健全な状態であると考えているためだといえる。このように同規定は確かに制度内において特異ではあるが、思想の根本を異にするものではない、ということは厳に承知しておかなければならないだろう。

▽ 歴史

 現在の『生活保護法』が施行されたのは昭和25年(1950年)である。第二次世界大戦終結後、昭和20年に制定された『生活困窮者緊急生活支援要綱』及び昭和21年に施行された『生活保護法』(通称、旧生活保護法)を、より社会実情に合わせまた充実強化する目的で改正したものである。すでに施行から60年を数えているが、法自体の内容には当時からの大きな変化はない。

 生活保護制度が類する公的扶助制度の日本における萌芽は701年の『大宝律令』の中に見られると言われているが、こと葬祭扶助に限っては前述の旧生活保護法において初めて登場した制度である。その前身といえる『救護法』(昭和4年施行)には現在のような葬祭扶助に該当する規定は存在せず、単に「救護を受くる者死亡したる場合に於ては勅令の定むる所に依り埋葬を行う者に対し埋葬費を給することを得」とされているのみである。(ただし当時の市での生活にかかる一人一日あたりの保護費が18銭なのに対し、埋葬費は一体6円以内となっておりおよそ1ヶ月分の生活の費用と近しい。当時の埋葬(土葬)に多くの人的費用が必要だとしても、金額としては現在とそう変わらぬ手厚い給付であるとはいえる)

 ところで、ここには葬祭扶助制度を考える上でひとつの重要な示唆が含まれているのではないか。すなわち、日本において「葬祭」が公的に扶助されなければならないほど、国民生活上また文化的に必要であると位置付けられたのは、実に終戦以降のことなのだろうか。あるいはまた、近代の地域生活共同体の弱化や国民生活の個別化などの進行によって、葬祭が地域生活共同体の能力を超え国家共同体の経済的な扶助無しには為し得なくなったのだろうか。どちらにしろ、これは日本における公的扶助制度の歴史を1300年とするとごく近年の変化でしかなく、またそれは葬祭扶助が他の主に生存に直接関わる扶助に比べてその時代の大衆的価値観の影響を受けやすいということでもある。そのため葬祭扶助は今後の国民生活や文化また国民意識の変化によって、その必要性や具体的な形を大きく変化させていく可能性が十分に有り得るとも考えられる。

▽ 法令

< 現行法 >
生活保護法(本文中略称:法) 【参照:総務省行政管理局提供・法令データ提供システム】
生活保護法施行規則(本文中略称:施行規則) 【参照:総務省行政管理局提供・法令データ提供システム】

< 通達 >
生活保護法による保護の実施要領について(厚生事務次官通達 社発第123号 S36.4.1-) 【参照:厚生労働省データベース】
生活保護法による保護の実施要領について(厚生省社会局長通達 社発第246号 S38.4.1-) 【参照:厚生労働省データベース】

▽ 実際

< 葬祭扶助の対象 >
 葬祭扶助の適用対象となる状況として法に定められているのは以下の三通りである。
T.生活困窮者自身が葬祭を行う場合(法第18条)
U.生活保護の被保護者が死亡した場合に、その者の葬祭を行うべき扶養義務者がなく、かつその死者の葬祭を行う第三者がいる場合(法第18条2の一)
V.ある死者の葬祭を行うべき扶養義務者がなく、またその死者の遺した金品で葬祭に必要な費用を満たすことができず、かつその死者の葬祭を行う第三者がいる場合(法第18条2の二)

 状況Tは被保護者や要保護者(現在保護を受けているかどうかに拘わらず、保護を必要とする状況にある者)自身が葬祭を行う場合である。法には生活困窮者自身が行う葬祭の範囲についての定めはないが、これを無制限に認めることは不合理である。生活困窮者自身が死者の扶養義務者でありかつ他に葬祭を行うべき扶養義務者等が存在しないなど、代替される方法がない場合に限ると理解するのが妥当であろう。

 状況Uは被保護者自身が死亡した場合に、その死者の葬祭を行うべき扶養義務者がおらず、さらにその葬祭を第三者が行う場合である。ただしこの第三者について、それが自治体の長やその依頼を受けた民生委員である場合には『墓地、埋葬等に関する法律』(以下、墓埋法)第9条に定められた葬祭であると解され、葬祭扶助の適用は認められない[3]。しかし、民生委員が一私人として葬祭を行う場合はこれに当たらない[4]。また葬祭を行うべき扶養義務者は存在するが、その扶養義務者が資力において実際に葬祭を行う事ができない場合には、論理的にはその扶養義務者が状況Tによる葬祭扶助の適用を受けるべきである。

 状況Vは被保護者であるかどうかに拘わらずある人が死亡した場合に、その死者の葬祭を行うべき扶養義務者がなく、かつその死者の遺した金品によって葬祭に必要な費用を満たすことができず、さらにその葬祭を第三者が行う場合である。この場合も葬祭扶助の適用が認められる第三者については状況Uと同様である。

 なおどの場合においても「葬祭を行うべき扶養義務者」とは民法第877条に定められた扶養義務者と同様の範囲であると解されている[5]。しかし実際にはこれらの扶養義務者が葬祭を行うべき時点で存在不明・所在不明等、あるいは葬祭を拒否するケースも有り得る。これらのケースにおいては一時的に扶養義務者の不存在として葬祭扶助を適用し、扶養義務者の発見あるいは資産調査等を経て改めて扶助費の返還請求を行うという手順を踏む事も有り得る。
 また状況U及びVにおける葬祭扶助については、これらの扶助費は葬祭に要する費用の弁済的な性格を有するため、葬祭を行う第三者自身の資産状況は考慮されず、状況Tや法の他の扶助のような資産状況による適用の要否の判定は行わないものとされている。

< 葬祭扶助の範囲 >
 葬祭扶助によって費用が支弁される範囲は、法第18条に以下が定められている。
T.検案
U.死体の運搬
V.火葬又は埋葬
W.納骨その他葬祭のために必要なもの

 範囲Tの検案とは継続的な医師の診察を受けずに死亡した者など死因の究明を要する死体に対する医学的検査を行うことである。またここで言う検案には検案書作成に伴う費用も含まれる。
 範囲Uは死体を運搬するための費用であり、死亡地から自宅や安置所等、また火葬場や埋葬地へと運搬するすべてを言う。なお字義通りであれば骨葬地域などにおける火葬後の遺骨の運搬費用についてはここには含まれないことになるが、文化的感情の保護という観点からは当該地域において現実的ともいえないため、実施に際しては各々の自治体の判断によることになろう。
 範囲Vは死体を火葬あるいは埋葬(土葬)するための費用である。
 範囲Wは焼骨の納骨その他葬祭のために必要な諸々のものとされている。なお栃木県弁護士会編『生活保護法の解釈と実務』ではここで言う「納骨」を墓埋法に定められる「納骨堂」の納骨と解釈し焼骨の収蔵(焼骨を納骨堂に納めること)のみを指すと説明している[6]が、実際として焼骨の収蔵に限定し埋蔵(焼骨を墳墓に納めること)を含まないとする合理的理由は見あたらないため、ここで言う納骨とは一般的な用語としての納骨であって焼骨の収蔵と埋蔵のどちらをも含むと解釈することが現実的であろう。この点について墓地面積を必要とする埋蔵が費用面から現実的でないという見方があったとしても、当該自治体における合葬式無縁墳墓等の様態が埋蔵式である場合などにこれらを除外することは適当ではないからである。[→関連課題T]
 また「その他葬祭のために必要なもの」がどこまでを指すのかについて法律上の詳細な定めや中央官庁通知等はなく、実施する地方自治体等に判断を委ねられているのが現状である。この点について現在もっとも有力な指針として広く利用されているのは、小山進次郎著『生活保護法の解釈と運用』に記された「死亡診断、棺、骨壺、位牌、祭壇、読経料等」であると思われる。なお同書で逆に支給できないものとして言及されているのは「飲食物費、香典返し、お供え料、謝礼等」である。[→関連課題U]

< 葬祭扶助の基準額 >
 葬祭扶助の基準額(基本となる扶助費の上限額)は、2010年度では以下の通りである。大人・小人の別は、当該自治体に火葬料金区分を定めた条例等がある場合はその区分に従い、無い場合は地域慣習によるとされている[7]。なおこの金額はあくまでも上限であって、実際にその葬祭に要する費用がこの額に満たない場合には、その実際に要する額までしか支給されない。また生活保護の補足性の原則に従い、活用できる可処分資産や遺留金品、葬祭扶助以外の公的扶助等がある場合にはそれらを優先して活用し、不足額についてのみ葬祭扶助給付で補填することとなる(右図)。

級地別大人小人
1級地及び2級地201,000円以内160,800円以内
3級地175,900円以内140,700円以内

 ただし各々の葬祭の実情によってこの基準額は次項に掲げるように一定の範囲内での積み増しが認められている(次項参照)。このため概要で取り上げた平成20年度の葬祭扶助費年間総額を月間平均件数×12で割ると1件あたりの扶助費は平均で約207,000円となり、同年度の1級地・大人の基準額である199,000円を上回っている。

< 基準額の加算及び特別基準の設定 >
 2010年度では以下の条件において基準額への積み増しが認められている。この積み増しについて通達ではT・Uを「基準額への加算」、V〜Yを「特別基準の設定」と区分している。しかし個別の案件に対し扶助の額を算定する際にはこれらの区分は実質的に意味がないといえるだろう。なお複数の条件に該当する場合は各項目における基準額からの積み増し額を累積させることができる。またこれらの条件に該当し基準額が積み増しされたとしても、実際にその葬祭に要する費用の総額が積み増し後の基準額に満たない場合には当然その実際に要した費用の額までしか支給されない。(注:以下の各項目の文言は通達の通りではなく、分かり易いように筆者が書き換えている)

T.葬祭を行う地域の条例に定められた火葬に要する費用が1級地及び2級地において大人600円・小人500円、また3級地において大人480円・小人400円を超える場合には、その超えた額を基準額に積み増してもよい。なお他の条例などにより火葬費用の減免がある場合は、その減免を適用した後の費用について判断される。またこの積み増しは火葬費用に限定され、埋葬(土葬)費用には適用されない。[→関連課題V]
U.死体の運搬にかかる費用(寝台車料金等)が1級地及び2級地において13,330円、また3級地において11,660円を超える場合には、その超えた額について19,700円から左記の額を除いた額の範囲で基準額に積み増してもよい。なおこの額は搬送の回数にかかわらずその費用の合計について判断される。[→関連課題W]
V.小人の葬祭を行う場合に、要する費用が上の表の小人の基準額を超える場合であって、かつその地域における小人の葬祭の実態が大人のそれと同様であると認められる場合(例えば火葬費用が同額であるなどの場合)には、小人の葬祭についても上の表の大人の基準額を適用してもよい。
W.前出<葬祭扶助の対象>のUに該当する場合、基準額に1,000円を積み増してもよい。
X.死亡診断又は死体検案に要する費用(診断書及び検案書の発行手数料を含む)が5,100円を超える場合には、その超える額を基準額に積み増してもよい。
Y.火葬又は埋葬を行うまでの間に死体を保存するために特別の費用(ドライアイス処置料や死体保管料など)を要する場合には、その必要最小限度の実費を基準額に積み増してもよい。[→関連課題X]

< 保護の実施責任 >
 状況Tにおける葬祭扶助の実施機関は、扶助を受けようとする困窮者の居住する地における生活保護の実施機関である。ただし居住地が確定されない場合あるいは状況が急迫している場合には、当該困窮者の現在地の実施機関がこれに当たることがある。(法第19条)
 状況Uにおける葬祭扶助の実施機関は、生活保護を受けていた死者の死亡時の居住地における生活保護の実施機関である。[8]
 状況Vにおいては状況Uに準ずるものとして取り扱っている事例が多いようである。(東京都、兵庫県等の自治体内問答集参照)[→関連課題Y]

< そのほかの留意点 >
T.妊娠4ヶ月以上で死産した場合には葬祭費を認定してもよい。[9]

<葬祭扶助における香典の取り扱いについて>
 法及び施行規則には葬祭扶助における香典の取り扱いについての規定はない。従って香典は事実上、葬祭扶助制度の埒外であると言える。[→関連課題Z]
 ただし葬祭扶助が< 葬祭扶助の対象 >のTに対して行われる場合、受け取った香典の金額が社会通念上相当の範囲を超えたもの[10]については、当該被保護者の収入として認定され、その後の生活保護に対して保護費の再設定・停止・廃止等の処分が行われることがある。しかしこの点についても社会通念上相当の範囲がどの程度かということについては定められておらず、保護の実施機関の判断によるところである。なお社会通念という以上、少なくとも現状における認識からすると査定の対象になるのは香典から香典返し等を行った残余の金額についてであろうとは考えられる。

▽ 課題

T.< 葬祭扶助の範囲 >のWにおいて納骨の費用については法の定めるところであるが、現在我が国の墓地では公営・民営を問わず墓地使用料の様態として使用開始時にかかる費用(以下、使用料)に加え一定期間あたりの管理にかかる費用(以下、管理料)が設定されていることが一般的である。仮にこの管理料を生活保護制度によって扶助するとすれば、これは祭祀にかかる費用であるから適用される扶助は葬祭扶助であることが適当であると思われる。しかし厚生労働省に問い合わせたところ、この定期的な管理料に関しては扶助の対象としないという指針を示された。このため墓地条例等によって生活困窮者に対し公営墓地等の使用料や管理料を減免する措置を講じていない一部の自治体においては、生活に困窮する祭祀者が使用料や管理料を納められないために焼骨を受け入れる墓地が著しく制限されるおそれもある。また墓地を使用していた祭祀者が生活保護を受けるに至った時、管理料が支払えないためにすでに納められた死体や焼骨を回収(次に埋収蔵を行うあてがなければ自宅保管等によるしかなく改葬にもあたらない。ただし死体を回収した場合には自宅保管のためには火葬し焼骨とする必要があろう)し墓地を返却せざるを得ない状況に陥る可能性も否定できない。
 社会的合意に踏み込んで述べるならば、これらのことが我が国で現在一般に理解される祭祀者の精神的・社会的健全性を損なわないとは言い難い。この問題を今後回避するために考えられる方法としては、@葬祭扶助で一定の管理料を扶助する、A全国の自治体に生活困窮者に対する墓地管理料の減免措置を義務付ける、B全国の自治体に公営合葬墓など管理料の個人負担を必要としない墓地の設置を義務付ける、等が考えられる。なおこれまでの実態としては、ここでいう納骨とは火葬後の収骨までが限定的に指され、その後の墓地納骨堂への納骨に関しては墓地条例の定めの如何に依らず自治体や民営墓地管理者の善意によって無縁合葬墓への埋蔵等が行われているのが一般的な現状であると指摘する識者もいる。これらの問題の背景としては、我が国において昭和期後半に急速に民営墓地が増加し[11]墓地がそれまでの地域共同体に限定されたインフラストラクチャーから一般的な事業へとその性質を大きく転換していったことが影響しているのではないだろうか。法の制定時においては管理料を必要としない墓地も少なくなかったために法の想定から漏れているのではないかと思われるのである。

U.< 葬祭扶助の範囲 >のWにおける「その他葬祭に必要なもの」の範囲について、現在の我が国において「必要最低限度の葬祭」を定義することは甚だ困難である。特に範囲T〜Wが死体の物理的(運搬・埋火葬)・社会的(検案)処理をその中心的意義としているのに対し、範囲Wはその霊的・精神的・尊厳的観点からの葬祭の必要性をその中心的意義としている点で大きく異なる。そのため葬祭が実施される地域慣習・宗教また個別の思想によって必要とされる範囲に大きな開きがあるのが実情である。
 個別に見ると、小山の挙げる「死亡診断、棺、骨壺、位牌、祭壇、読経料等」の内、少なくとも「死亡診断(及び診断書発行手数料等)・棺・骨壺」については妥当であろう。死亡診断は前述の社会的処理を補完するものであるし、棺・骨壺についてはごく一部の宗教等において使用しないとはいえ、現在我が国における大凡の葬祭においては必要といえる。次に「位牌・読経料」については、我が国における葬祭に選択される宗教様式についてそのほとんどを仏教式が占めていることからすればこれも妥当と言って差し支えないだろう。もっともこれは当該宗教・思想における儀礼的・宗教感情的な見地からの必要性をその意義としているのであって、他宗教・思想において同様の意義のあるものについては適宜置き換える必要があることは言うまでもない(例:神葬祭に際しては位牌を霊璽・御霊代等に置き換えるなど)。このほか、ここに挙げられてはいないがその意義に照らすならば仏教式葬祭における「具足・経机・線香・蝋燭・焼香用具・仏衣・樒等」や、神葬祭における「具足・八足案・三宝・神饌・榊(玉串)等」についてはこの範疇に含まれるものと解せるだろう。さらにその葬祭が特定の宗教に依るものでなかったとしても、文化的感性からこれら代表的な道具を用いたとしてもその妥当性を欠くとはいえないものと考えられる。
 しかし特に物議を醸しやすいと思われるのは「祭壇」である。まず確認しておかなければならないのは、小山の著書が発行された当時と現在における「祭壇」の認識が大きく変化しているという点である。我が国の葬祭は昭和期後半にいわゆる祭壇文化の隆盛を迎え、現在はやや衰退傾向にあるものの未だ装飾としての祭壇が葬祭の主軸となっている。しかし第二次世界大戦直後、祭壇文化が花開く以前には「祭壇と言えば現在の枕飾り程度のもの」であった[12]。さらに同じく昭和期後半には我が国の葬祭業はそれまでの物販・貸出・人材派遣業等からサービス業へとその業態主軸を変化させ[13]、その役務対価を祭壇設置料金の中に求めるようになり、現在においても多くの事業者はその様態を承継している。現在の祭壇が葬祭必需品か虚飾かということに関しては思想の項でも述べたように法の定めるところではなく時代の社会的合意によるものであるが、少なくとも小山は祭壇について「葬祭儀礼の観点から必要最小限の用具」すなわち前述の具足・経机等のことを言ったのであって、現在に見られるような装飾としての祭壇は想定していなかったものと考えられる。また同時に葬祭扶助全体を通してその葬祭を「その実施のほとんどの事柄を有料で事業者に依頼する」ということも想定しておらず、葬祭を行う者自身が用具その他を揃え役を担うという前提において、その実費を扶助することのみを想定していたのではないだろうか。このことを裏付けるものと思われるのが小山が除外と言及した「謝礼」である。(なお規則上葬祭を行う者に対して交付される(法第37条)保護金品が実際的には葬儀社に対して直接支払われていることが、この解釈によるためか、実務上の便益の問題であるかは判然としない)
 さて仮に葬儀社が葬祭を行う者として扱われるとするならば、それは主体的に責任を負った一私人としてその葬祭を実施するのであって、ここに商業的利益さらには役務対価を求めることすらも本来的ではない可能性が示唆される。だが現実的には葬儀社は営利企業であるのだから、この解釈を硬直的に適用してしまえば公営葬儀を整備している自治体や福祉事業としての助葬組織のある地域の他では葬祭扶助の適用される葬祭を請け負う者がいなくなる可能性すら有り得るわけである。このように旧来地域共同体等によって主体的に行い得た葬祭が今日において専業的な葬祭業に依らなければ為し難くなっていることは、これからの葬祭扶助制度を考える上で最も注目しておかなければならない点であろう。

V.< 基準額の加算及び特別基準の設定 >のTにおける火葬料金差額の積み増しについて、当該地域に火葬費用の額を定めた条例がない場合には隣接地域の条例を参照することとされている[14]。この隣接地域の条例とは実際に火葬を行う地域の条例ことを指していると考えられるが、この際参照すべき火葬費用の額が、当該地域におけるその住民に対する火葬費用の額であるのか、あるいは実際に支払うべき住民以外に対する火葬費用の額であるのかは、厚生労働省に問い合わせても明確な回答は得られなかった。例えば火葬施設及び火葬費用に関する条例のないA市で葬祭扶助の適用を受け、B市で火葬するとする。B市の条例ではB市の市民が火葬施設を利用する場合には10,000円、市民でない者が火葬施設を利用する場合には60,000円の費用を利用者負担とすることと定めていたとする。この場合参照すべき額が60,000円であれば問題はないが、10,000円であれば差額の50,000円は通常の基準額の中から捻出しなければならないことになる。この判断は葬祭扶助を実施する自治体の裁量に委ねられているのが実情のようであるが、このように落差の大きな事柄については一定の指針があって然るべきであろう。

W.< 基準額の加算及び特別基準の設定 >のUにおける死体運搬費用は寝台車でいうと1回分程度の搬送費用しか想定していないものと思われる。法が制定された当時の国民の死亡場所を見れば自宅が多数であったため、必要最小限の運搬といえば概ね自宅から墓地ないし火葬場へと向かう1回で事足りたであろう。しかし現在において病院死亡がそのほとんどを占めるに至っては、その病院から火葬を制限されている死後24時間を超えるまで安置する場所への運搬と、その安置場所から火葬場までの運搬との2回が概ね必要となり、この設定額では心許ないといえるだろう。もっとも死体の搬送に際し霊柩・寝台事業者の車両を用いなければならないという規則はないため、葬祭を行う者が自家用車等を用いて運搬するなどの工夫は十分に検討の余地があるし、法の本来の想定はそこにあるのではないかとも考えられる。それでも葬祭を行う者が生活保護の被保護者である場合には当該世帯が運搬の用に足る自家用車の所有を許可されている可能性は低いということなども考え合わせれば、やはり現場としてはこの特別基準枠の拡大を望みたいところである。

X.< 基準額の加算及び特別基準の設定 >のYにおけるドライアイス等の死体保全費用に関しては、これがどの程度の状況において必要最小限と言い得るかという有力な指針はない。少なくともここで基準額に含めず特別基準としているあたり、ドライアイス等による死体保全に関して法は基本的に「一般的には必要とはいえない」と理解していると考えられる。現在一般的な葬祭においては実際的には死後すぐから火葬実施までの全期間について相当の量のドライアイス等を用いるわけであるが、法が施行された時期にはまだドライアイス等による死体保全は一般的ではなかったからであろう。しかし現在、特に都市部において一部の時期に死亡者数が火葬場等の処理能力を超えるなどの理由で最短の期間で火葬を完了できない事案がすでに例外と言えなくなっており、また今後我が国における年間死亡者数が増大していくに伴って同様の事案も増加していくことと考えられるため、社会衛生上の観点からも死体保全を軽視することはできない。また死体保全の技術的方法についてもその選択肢が拡充されてきているのであるから、葬祭扶助制度が想定すべき死体保全の方法や程度また費用の妥当性についても今後検討していく必要があろう。

Y.状況Vにおいて、死亡者と葬祭扶助を申請する者(葬祭を行う者)の居住地が共に同じであれば当該地における生活保護の実施機関に実施責任があることは明白であるが、この両者の居住地が異なる場合にはどちらの地の実施機関に実施責任があるかという疑義が生じる。資料1〜3においてはこの問題に関する明確な指針を見出すことはできないが、状況Uにおける実施責任については「保護金品が交付されるのは葬祭を行う者であるが、実質的には死亡した者に効果が帰属することを考慮し、これまでの保護の実施機関に責任を負わせた…」と回答されている。では状況Vにおいて扶助の効果が帰属する者は誰であるかとなると、一見状況Tと同じように扶助の効果は端的に申請者に帰属するようでありながら、そもそもこの状況においては申請者自身の経済的困窮は要件とされていないこともあり、死者の遺留した金品で葬祭を行えないという状況は生前に生活保護を事実として受けるに至らなかったとしても(要保護者であるままに死亡した場合など)状況Uと同様に死者そのものの経済的困窮に起因する扶助という実質が存在することを否定できない(『思想』-< 法第18条第二項規定の特異性 >を参照)。そのためこの扶助の効果の帰属については取り扱う自治体によって解釈に差が生ずる可能性がある。例として兵庫県では県下自治体間の取り決めとして「法第18条2の二に基づく葬祭扶助の実施は死亡者の居住地の実施機関が当たる」と定められている(参照:生活保護百問百答,兵庫県健康生活部社会福祉局社会援護課,2008)ようである。
 もちろん根本的には、自治体を跨ぐような遠隔地の人物がその死者の葬祭を行うに至るということに対する当然性は問われるものであるが、昨今の社会情勢を鑑みるにけしてあり得ない話ではないと言えることから、この点についても中央官庁通達等の指針があって然るべきであろう。

Z.< 葬祭扶助における香典の取り扱いについて >で述べたように、現行法制下において葬祭扶助制度と香典は直接には関係のないものである。当然このことは< 葬祭扶助の対象 >のUないしVに対して行われる葬祭扶助においても同様である。しかしこれらのケースでは本論の対象Tに対する取り扱いのように間接的にでも実質の葬祭費用と香典収入が相殺されうる制度的取り決めがない。すると葬祭を行った第三者が一方では葬祭費用に相当する葬祭扶助を受給し、かつ他方では香典をそのまま収入とする場合が発生しうる。その場合には『生活保護法の解釈と実務』でこれらのケースについて「実質弁償的な性格を有する[15]」と説明されていることとの整合性に疑義が生じることとなる。
 確かに税務上の解釈では香典は葬祭の「主宰者に対する」贈与であるとされている。端的にこの解釈に準ずるならば、主宰者が葬祭費用を支払うことと、主宰者が金品を贈与されることの間にはそもそも相互関係はない。しかし香典が現在の社会において「葬祭費用に充当するためのものである[16]」という理解が大勢であるならば、生活保護法が想定する「社会通念上相当の程度」において行われる葬祭扶助とは実際の葬祭費用に香典を充当した上でなお不足する金額について行われるべきであると大衆が認識しても無理はない。
 法はこの点について、おそらく「葬祭扶助を受ける状況にある者の葬祭に対し、社会的に問題になるほどの香典が集まることはない」と想定しているものと思われる。法の制定当時において、その想定が事実上無理からぬ社会であったろうことは想像しうるとしても、今後も同様の社会であると断ずることはできない。なぜなら現在の日本社会においては「扶養義務者が存在しない者」がけして珍しい存在ではなく、またその理由も単に経済的困窮であるとは限らないからである。もちろん制度が無くとも主宰者が自主的に香典収入を葬儀費用に充当し、なお不足する金額のみについて葬祭扶助を受けるという選択肢はあるが、その善意にのみより頼むのは希望的観測以上のものではない。現時点においてこの問題についての司法レベルでの係争が目立たないとしても、やはり今後に向けて立法的な予防措置を講ずるべきであろうと思われる。
 なお本稿を書くために調査に当たった際、厚生労働省の一担当官はこの問題に対して、「税務上の取り扱いはともかくとして、むしろ香典が社会通念上「死者に対する供え物」であるならば、その香典を法第18条2の二における「死者の遺留した金品」であると解釈し、葬祭費用に充当することもできるのではなかろうか」と私見的感想を述べたことを付記しておく。

▽ 注釈・参考資料等

< 注釈 >
[1] 国立社会保障・人口問題研究所『社会保障統計年報データベース
[2] 資料2(p87) 問2-14
[3] 資料2(p261) 問7-160
[4] 資料1(p243) 問第7の16
[5] 資料2(p258) 問第7-156
[6] 資料3(p91)【解説】3-(2)
[7] 資料1(p243) 問7の15
[8] 資料2(p87) 問2-14
[9] 資料1(p243) 葬祭費(5)
[10] 資料1(p260) 収入として認定しないものの取扱い
[11] 資料4(p76) 変わるお墓事情
[12] 資料4(p64) 祭壇および祭壇道具の登場
[13] 資料4(p67) 全葬連「葬祭サービス業」を提唱
[14] 資料1(p244) 問第7-21
[15] 資料3(p90) 【趣旨】3
[16] 資料4(p170) 香典の意味

< 参考資料 >
[資料1] 生活保護手帳 2010年度版(中央法規出版株式会社,2010)
[資料2] 生活保護手帳 別冊問答集 2010(中央法規出版株式会社,2010)
[資料3] 生活保護法の解釈と実務(栃木県弁護士会編,株式会社ぎょうせい,2008)
[資料4] 増補三訂 葬儀概論(碑文谷創,表現文化社,2011)


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