(シリーズ読み物)『お葬式、ひとつください』


TEXT INDEX
第一部 全体の構成を決める

喪主と施主を決める
宗教を決める
公開範囲を決める
式のスタイルを決める
式場を決める
当日のスケジュールを決める
第二部 具体的な内容を決める

全体の予算を考える
葬儀社を選ぶ
コラム 葬祭ディレクター
棺を選ぶ
遺体を搬送する
遺体を保全する
火葬と拾骨
コラム「お葬式は最低いくらからできますか?」
遺影写真を作る
祭壇飾りを選ぶ
コラム「祭壇料金」は何の料金?
式場の表飾り
枕飾りと後飾り
弔意を表す儀礼
受付と路上案内板
御礼品と御礼状
飲食
そのほかの費用
▼ 以下、未完継続中


喪主と施主を決める


 お葬式を営むにあたってまず最初にしなければならないことは、「誰が何を決め、どう責任を持つのか」を決めることです。お葬式の現場で見られるトラブルの多くは、このことがきちんと決められていないために起こっています。また一人の人が全部の決断と責任を背負ってしまい、余裕がなくなってお葬式で一番重要な「悲しむこと」に集中できなくなっているケースもたくさん見られます。逆に言えば、ここをきっちり決めておけばお葬式に関わるみんなの心理的負担がずいぶんと軽くなるのです。

喪主と施主

 喪主とは、そのお葬式を営むにあたってさまざまな意志決定をする人のことです。昔はその家の家長や、亡くなった人の長男が喪主となることがほとんどでしたが、近年では亡くなった人の夫や妻、または最後まで近くで世話をしていた子どもなどが喪主になることが普通になっています。
 施主とは、平たく言えばそのお葬式にかかる費用を出す人のことです。また喪主と違って施主は複数人ということもあります。例えば、葬儀社と契約して葬儀料金を支払う人と、お坊さんのお布施を包む人は別だという場合などです。

 喪主は「お葬式をこうしたい」という自分の希望を一番反映させやすい人です。しかし一面、そのお葬式の取りまとめ役でもありますから、自分だけではなくお葬式に関わる人たちみんなが満足できるように考えなければなりません。また施主は喪主の想いを尊重しながら、経済的に喪主を支えていくことが求められます。

喪主と遺族代表は違う?

 遺族代表というのは言葉通り、お葬式に際し遺族を代表して対外的な挨拶などを行う人のことです。一方、喪主というのはその人が「祭祀承継者」であるという意味合いを多分に含んでいます。祭祀承継者というのは、家のお墓や仏壇などを引き継ぎ、先祖を「まつる(祭る・祀る)」役割を担う人のことです。
 近年では「家長が先祖の祭祀を引き継いで守る」という意識が薄れ、亡くなった人と遺された人とは個別に関係していると捉えられることが多くなっています。そのためお墓を建てる人は多くの場合、その亡くなった人の直近の家族を代表する人ですから、喪主と遺族代表はほとんど同じような意味合いで使われています。

役割を決めるにあたって

 喪主や遺族代表と施主は同じ人が兼ねることも多くあります。その場合、それぞれの間の意見の食い違いが発生しないことが大きな利点です。しかし代わりにたくさんの責任を一手に引き受けることにもなるため、負担が大きく無理をしてしまう場合もあります。

 例えば若い男性が亡くなったとして、次のように役割分担することもあります。
  喪主 … 子ども (位牌を持つ・初めに焼香する)
  遺族代表 … 妻 (挨拶をする・事務手続をする)
  施主 … 父母 (契約する・お金を出す)

 大切なのは、それぞれが自分のできることをちょっとずつ負担しあって、みんなが無理なくお葬式に臨むことです。また周囲の人たちは、役割を決めた後はできるだけその人たちの意志を尊重し、協力して支えてあげることも大切です。

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宗教を決める


 宗教はお葬式を営むにあたってとても重要な意味を持っています。それは宗教が「人はなぜ死ぬのか」「人は死んだらどうなるのか」「なぜこのような悲しみがあるのか」「遺された人に慰めや癒しはあるのか」といった問いに、ひとつの理解の道筋を示してくれるからです。もちろん、これらの解答を宗教以外から得られる人にとっては必要ないのかもしれませんが、わずかな宗教的な儀礼までまったく無視できる人は実際にはあまり多くないと思います。

宗教と宗派

 一般的に宗教は仏教・神道・キリスト教などの大枠で考えることが多いのですが、いざお葬式を依頼するときには、その中の「宗派」についても考えなければなりません。例えば仏教では真言宗や浄土真宗というのが宗派ですし、キリスト教ではカトリックやプロテスタントというのが宗派と考えてよいでしょう。なお、宗派の中はさらに「教派」と呼ばれるいくつものグループに分かれていることが多いのですが、日本のお葬式で宗教を決める際にはあまり意識しなくても大丈夫です。
 宗教を、何を基準に選ぶかというのは難しいところですが、ひとつ言えることは宗教はけして「お葬式の時だけに必要なものではない」ということです。宗教は人の生き方全体に対してさまざまな影響を持つものですから、本当は日頃から自分の生き方に合った宗教を選択しておくほうがよいでしょう。

宗教が決まらない場合

 日本でまだ個人の信仰の自由が認められていなかった頃、お葬式はその「家」の宗教で営まれることが普通でした。しかし現在ではだんだんと家の宗教も認識されなくなり、宗教は個人的に持つものと考える人が多くなっています。このことはお葬式に際して宗教を自由に選べるようになったという点では良かったのですが、逆に亡くなった人の宗教と遺された人の宗教が違ったりすると、なかなかすんなりと決まらないこともありがちになりました。
 お葬式にどの宗教が良いのか、これは第三者から言えることではありません。家族の中で宗教が違う、あるいはこだわりのない人がいるなら、できるだけ生前にどの宗教でお葬式をするか話し合いをして決めておくべきです。もし、その機会なくお葬式を迎えることになった場合は、まず亡くなった人の明確な信仰があった場合はその宗教で、そうでなければ喪主の宗教で、という順番が現代では一番妥当でしょう。

宗教をいらないと思う場合

 お葬式に際して宗教はいらないと言う人もだんだんと増えてきています。しかしよく聞いてみると、その人たちも「高いお礼を払ってまで宗教者を呼びたくない」という意味で言っていることが多いようです。もし「本当は宗教的な儀礼もしてあげたいと思っているのにお金がないから難しい」と思っているのであれば、是非一度は近くの宗教者なり葬儀社に想いを伝えてみてください。宗教界にもさまざまな考え方を持つ人々がいますので、初めからムリとあきらめないでください。また可能な限り生前から相談しておくことも大切ですし、まとまったお金でなくても毎月千円をずっと寄付するとか、勤労奉仕をするとか、そういった形でも感謝を表すことはできるのです。

  なお本当に宗教そのものが必要ないと思っている場合は、強制されるものではありませんから無宗教葬を選択してもよいでしょう。ただし、ほかの遺族や会葬者が同じように宗教を不要と考えるかどうかはわかりませんので、十分に配慮や相談することが必要です。例えば宗教者は呼ばなくても焼香や献花をできるように用意しておくことなども重要です。

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公開範囲を決める


 お葬式にどれだけの人に来てもらうのか、これは近年一番の悩みどころかもしれません。会葬者の平均数は年々減少しているようですが、連絡が足りないと後々に自宅を訪れる人が多く苦労したという話も少なくありません。また家族だけでお葬式を済ませてしまった場合には、亡くなった本人を知る一般の人たちからすると弔いの機会を与えられないことに不満が残ることもあります。

区分別に考える

 公開範囲を考える時には、亡くなった本人に近い集まりから外に向けて区分別に順番に考えていきます。家族、親戚、友人、趣味の集い、ご近所、勤め先、といった順番でよいでしょう。その間に適宜、お寺や教会などの集まりや、医療や介護でお世話になった人、学校の同窓生などを、関係の深い順に加えます。
 ご遺族がよく迷っているのは、引退後の勤務先へ連絡するかどうかです。傾向を見ていると引退後10年ぐらいの間、つまり直接の部下などが会社に残っているぐらいの間であれば連絡していることが多いようです。

人数が先か、式場が先か

 お葬式に来る人数と式場の広さが合っていないと、小さければあふれ出て困ったり、大きければ費用の無駄が発生したりします。公開範囲を先に決める場合は、葬儀社にそれに見合った式場を探してもらったり、初めから適当な大きさの会館を保有している葬儀社に依頼することになります。逆に自宅や菩提寺、地域集会所など式場を先に決めている場合は、声をかけるのはその式場に収まる範囲の人たちまでにとどめたほうがよいでしょう。

お葬式を複数回に分けることもある

 亡くなった本人の希望で式場は決めているけれど、公開すべき人たちが明らかに多すぎる場合には、お葬式を複数回に分けることも考えられます。典型的な例は家族でのお葬式の後日に社葬などをするケースですが、これに限らずお葬式後にそれぞれのグループごとにお別れ会などをすることもあります。その場合、初めのお葬式以外には親族がそろう必要もありませんので、親族と関係者の日程の都合がつかない場合などにも、こうして何回かに分けることを考えてもよいでしょう。

 お葬式を複数回に分けた場合には費用負担も気になるところですが、逆にそれぞれのグループに開催の要否を聞き、必要であれば有志で費用を負担してもらうようお願いしてもよいでしょう。ご遺骨を前にお別れ会などをするのであれば、棺や霊柩車なども不要なため特に葬儀社に依頼しなくても、お花や茶菓を持ち寄ったりして手作りで費用をかけず行うことも可能です。

 規模的にも経済的にも許容量を超えるお葬式を行ってしまうと遺族の負担が大きくなります。ですから、大切なことをまとめると次のようになります。

・ 希望するすべての人に何らかの弔いの機会が与えられるよう計画する
・ 一度に無理をせず、複数回に分けてもよい
・ 費用の負担は、それぞれお葬式を希望する人たちに委ねてもよい

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式のスタイルを決める


 公開範囲と並行して考えなければならないのが、お葬式のスタイルです。どのような順序でどのような式典を持つのか、それぞれの式典では誰に参加してもらうのかなどを考えます。スタイルは地域性や共同体性も強いので、年長者などにも意見を聞きながら希望に合ったスタイルを考えていくほうがよいでしょう。

式典の種類

 お葬式の中の式典はその性質から「葬儀」と「告別式」に大きく分けられます。葬儀は死者を死後の状態に移行させる(あの世に送るなど)ための一連の宗教的・民俗的儀礼で、告別式は亡くなった人に関わりのあった人々がお別れをするための式典です。
 中心になる式典は近年「告別式」と呼ばれることが多いのですが、性質としては葬儀と告別式が連続して行われるのが一般的です。

火葬と告別式の順序

 選択の大きなポイントは、火葬と告別式の順序です。多くの地域では告別式を行った後に火葬しますが、身内だけで火葬した後に一般向けの告別式を行う慣習の地域も全国に散在しています。後者は「骨葬」と呼ばれ、前者は比較便宜上「遺体葬」と呼ばれます。

 [遺体葬]通夜 → 葬儀告別式 → 火葬
 [骨葬]通夜 → 葬儀 → 火葬 → 葬儀告別式
 ※ 同じことを2回行うのではなく、どちらかあるいは前後に分けて行う

 遺体葬の利点はもちろん、一般の会葬者も亡くなった人のお顔を実際に見てお別れできることです。逆に骨葬の利点は、死亡から告別式までの期間を長く必要とする場合などに遺体の腐敗を気にしなくてもよいことや、死亡地とお葬式をする地が離れている場合などに移送を簡便・安価にできることです。また事故などで遺体が損傷している場合などにも骨葬が選択されることが多くありますが、これは利便性ではなく亡くなった人の尊厳を守りたいという想いが理由となっています。

通夜の持ち方

 仏教でいう「通夜」は旧来は葬儀の前段階的な位置付けでしたが、近年その多くは葬儀告別式とほぼ等しいものに変化しています。これは勤め人などの参列の利便には適っているのですが、遺族にとっては二度の式典を持つことで疲れてしまう場合もあります。また通夜を伝統的に自宅で行う地域もありますが、一般参列者にも公開された式典にする場合は葬儀会館などで行うほうが遺族の疲労を軽減できるでしょう。
 自宅などで近親者だけで通夜を行う場合は、対外的な告知には葬儀告別式の情報だけを載せます。そうしないと、弔問者がひっきりなしに訪れて余計疲れてしまったり、十分に亡くなった方と向き合う時間が取れなかったりする場合もあるからです。

 欧米のお葬式を参考に、夜には式典を持たず来訪者にお別れだけをしてもらう「ビューイング」と呼ばれるスタイルも少しずつ関心が注がれています。葬儀会館などで一般来訪者にも公開し、お顔を見て自由にお別れをしてもらいます。式典がないため遺族も自由に出入りでき、疲れたら別室などで休んでおくこともできます。ただし日本ではまだ定着していないスタイルですので、参列者向けには焼香や献花などを用意しておいたほうが落ち着くでしょう。

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式場を決める


 お葬式の日程や公開範囲を決めるのと並行して、式場をどこにするのかを決めなければなりません。逆に言えば、式場の確保ができなければ日程や規模が確定できないこともあるでしょう。
 また公開されたお葬式をしないとしても、埋火葬までの最低24時間について遺体をどこに安置するかということなどは考えなければなりません。
 なお通夜と葬儀告別式で式場を変更することもありますが、葬儀社によっては「飾り替え料金」などの追加料金を請求される場合もありますので十分な相談が必要です。

式場の種類と性質

 式場として考えられるのは次のような場所です。

@ 亡くなった人や喪主・施主などの自宅
A 入居していた老人ホームなどの部屋や集会室など
B 近隣地域や集合住宅付属の集会所・公民館など
C 市区町村が経営する式場
D 宗教法人などが経営する式場や礼拝施設
E 葬儀社が経営する式場

 大きく分けると@Aの「自宅など」、BCの「公営式場」、DEの「民営式場」という分類にできます。中には半民半官(第3セクター)で経営されているところもあります。
 参列者の収容規模・使用料金・使い勝手の良さはいずれもおおよそ、「民営式場」>「公営式場」>「自宅など」といった傾向になるでしょう。

 多くの場合、公営式場は住民である遺族が管理者に直接申込みをすることになります。集合住宅の集会所であれば自治会長などが鍵を管理していることもありますので、日頃から確認しておくと慌てないでしょう。
 A〜Dは葬儀社を選ばない場合が多いのですが、Eは経営している葬儀社でないと使用できないのが普通です。葬儀社を先に選ぶか、式場を先に選ぶかということも考えなければならないポイントのひとつです。

そのほかの式場

 一般的なお葬式では稀なケースですが、式場をホテルや屋外に設定する場合もあります。ただしホテルでは遺体の搬入や焼香、マイクを使った読経などを禁止していることも多く、無宗教の骨葬などが中心になります。これまでは参列者千人規模の社葬など状況は限定的でしたが、近年では家族規模のお別れ会や法要などに会場を提供するホテルも増えてきています。
 また屋外で思いつくのはドームやゴルフ場などを使った、芸能人などの特大規模のお葬式ですが、いわゆる直葬などが認知度を高めてきた現在では今後、墓地で埋骨する前に少人数で簡略に行われるお葬式などを前面に押し出す葬儀社や墓地が出てくるかもしれません。
 なお現在の日本ではさらに稀なケースとして「病院の霊安室など」という可能性も有り得ますが、まだ取り上げられるほどの実例はほとんどないと言えるでしょう。

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当日のスケジュールを決める


 お葬式の概要が決まったら、具体的な日時とスケジュールの調整を行います。家族、親族、宗教者、式場、会葬者、また遺体葬では火葬場の都合などを総合的に考える必要があります。また近年のお葬式では主要なほとんどの行事を一日の内に終わらることが多くなっています。

都合に配慮する優先順位

 喪主を含む直近の家族親族はそのお葬式を主体的に営む人々ですから、この人たちの都合はもちろん第一に考えてよいでしょう。ただしあまりにもほかの要素との折り合いがつかない場合には、「公開範囲を決める」の回で述べたようにお葬式を複数回に分けるなどで対処することも考えましょう。
 宗教者の都合も優先して配慮すべきです。近年特に都市部では葬儀社がお葬式のスケジュールをすべて決めた後に宗教者を呼びつけるようなケースが目立ちますが、可能な限り火葬場などの時間を決める前に宗教者の都合を打診しましょう。例えば勤め人の遺族や会葬者などは土日のお葬式を希望することが多いのですが、ほとんどの宗教では基本的な活動集会などが土日に固まっているため、特に宗教者を指名する場合は都合がつかないことも少なくないからです。

火葬場の予約と式の時間

 火葬場の予約実務は一般的に葬儀社に委ねます。ただしどの火葬場を利用するかは喪主・施主が決められます。火葬場には公営・民営の別や、料金、設備などの違いがありますので、現実的に利用可能な火葬場の選択肢を葬儀社から提示してもらいましょう。例えば式場が市境に近い場合に、料金は上がっても越境して隣の市の火葬場を利用するほうが時間的都合が付きやすいケースなどがあります。
 近年ほとんどの火葬場では火葬したその日の内に骨揚げをします。そのため一部の例外を除き火葬を始められる時間は営業時間内に火葬が終了して骨揚げができる時間に限られています。この時間は概ね午前10時から午後3時ぐらいまで、幅広いところでもその前後1時間ぐらいまでが普通です。
 葬儀告別式に引き続き火葬するという一般的なスタイルであれば、予約の取れた火葬場の入場時間から逆算して葬儀告別式の開始時間を計ります。

[開始時間] ← 葬儀の時間+告別式の時間+火葬場までの移動時間 ← [入場時間]

骨揚げまでの時間とその後

 火葬開始から骨揚げまでの時間は火葬場によってまちまちです。東京や京都などでは約1時間、大阪や神戸などでは2時間から2時間半ほど、設備の古い火葬場では3時間前後かかるところもあります。1時間程度の火葬場では待合室から出ませんが、比較的待ち時間の長い関西圏などではこの間に元の式場や料理屋さんなどに移動して食事をすることも多くあります。後述する神道の帰家祭をこの時間に行うケースもあります。

 このほか例えば帰家祭(神道)や還骨勤行(真宗)などを骨揚げの後に行うこともあります。また近年は遺族の都合により初七日(仏教)や十日祭(神道)を前倒しして行うことも増えていますので、必要に応じてそれらの時間を含めたスケジュールを立てましょう。

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全体の予算を考える


 今、お葬式にかかる費用に大きな関心が注がれています。お葬式にかかる費用はけっして少なくありません。遺された人が後の生活に無理をしないためにも、買物を始める前にまずおおよその予算を立てることは大切なことです。

費用の区分

 お葬式にかかる費用は、おおよそ次の5つに分けられます。

T お葬式全体を通して主に葬儀社に支払う費用
U [飲食費][宿泊費][交通費]などの周辺費用
V [宗教団体や宗教者へのお礼]
W [香典返し]など返礼の費用
X [墓地・墓石][仏壇]など後の祭祀に関する費用

 そのうちTはさらに次の3つに分けられます。

@ [棺][霊柩車][骨壺][火葬料金]など亡くなられてから骨揚げまでに事実上必要な費用
A [お葬式の祭壇飾り][式場の使用料][スタッフの人件費]など式典を行うための費用
B [参列者への御礼品や礼状][献花]などお葬式を一般公開する場合のための費用

 一般的に「お葬式の費用」と言われるものは大区分のTからVまでのものです。大区分のうちWは基本的には香典という収入の金額内で行われるものですし、Xは特に緊急性のない費用ですので、初めの段階ではこのふたつについては重く考える必要はありません。

全体費用の目安

 さて予算を立てるといっても、滅多にない買物ですからさっぱりわからないという人が多いようです。財団法人日本消費者協会が行っている「葬儀についてのアンケート調査」の現行最新版報告書(第9回 2010年調査)ではTからW(宿泊費と交通費を除く)について全国平均199.9万円という数字を出していますが、この数字も実は「大げさ」だという認識が葬儀業界内でも多数です。
 お葬式には何百人もが参列する社葬など大規模なものから、家族数人で見送る小規模なものまでさまざまなものがあります。その中で平均を取ることそのものに無理がありますし、みんながそれに近づこうとする必要もありません。お葬式の費用に一般的な目安はなく、まず「自分たちがどれだけなら無理なく出せるのか」から考えるほうがよいのです。

 それでもまったく指針がなければ余計に迷うだけでしょうから、TからVの合計金額について、お葬式の現場に居る者としての私の個人的な認識を申し上げておきます。
 まず「最低限」の金額は20万円前後だと考えられます。これは生活保護受給世帯などに対して給付される「葬祭扶助」の金額(地域差があります)程度ということです。そしてもしこれよりも出せる金額が少なければ、葬祭扶助を受けてこの金額まで引き上げられるということでもあります。
 参列者が100名程度までの一般に公開されたお葬式では、100万円を超えるあたりから「選択の幅が大きく広がる」と考えてよいでしょう。それ以下でももちろんお葬式はできるのですが、内容についてあまり余計な選択はできないというのが実状です。内訳の比重はざっくりとTが60〜80%ぐらい、Uが5〜20%ぐらい、Vが15〜30%ぐらいではないでしょうか。全体額が大きいほどTの比重が上がり、Vの比重が下がるという傾向もあります。また地域や宗教によってUやVの比重が大きく異なってくる場合もあります。

 あとは本当にお気持ちと経済的な事情によります。「うちは30万円しか出せないんだ」ということもあるでしょうし、「500万円はかけて花をいっぱいにしてあげたい」ということもあるかもしれません。一昔前のように「世間並みに」とまず考える時代ではなくなっています。

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葬儀社を選ぶ


 今の日本でお葬式をする際に葬儀社を利用しないということはほとんどありません。葬儀社というと普通、営利団体である企業法人のことを想像しますが、経営主体が市区町村やNPOでも「物品の提供を受け、また手続を依頼する」という意味では同じです。お葬式に関する多くのことを委ねるわけですから、葬儀社を選ぶことはとても大切なことです。

企業の特性を見る

 葬儀社にはそれぞれの特性があります。大がかりな設備がありたくさんの人員がいて大きな社葬などを得意とする企業もあれば、フットワークが軽くそれぞれの家庭の事情に合った小規模なお葬式を得意とする企業もあります。商品の品質が高いけれども価格も高い企業や、逆に安い代わりに品質がそれなりの企業もあります。また一部には特定の宗教や宗派に特化した葬儀社もあります。
 特性には例えば次のようなものがありますが、あらゆる点において優れた企業というのは普通はありえません。ですから「自分たちの考えるお葬式に求める特性は何か」「それにもっとも適した葬儀社はどこか」と考えることが大切です。

・ 商品やサービスの品質が高い
・ 商品やサービスの選択の幅が広い
・ 商品やサービスの価格が安い
・ 対応力が高い
・ 会館や遺体安置所などの設備がある
・ お葬式実務に関する知識が深い
・ 特定宗教に対する専門性が高い
・ 社会や消費者に対する志が高い

葬儀社選びに困ったら

 お葬式は大きな買い物ですから、葬儀社を自分たちできちんと比較して選べるに越したことはありませんが、情報が不足していたり経験が少なくて判断に迷うことも多いようです。もし葬儀社選びに困るようなら、次のような人たちに意見を聞くことが考えられます。

@ お葬式を依頼する宗教者や信徒役員など
A 地域の世話役や長老、親族の中のお葬式経験者
B 葬儀社を紹介することを仕事とする会社

 @とAはその人たちの実際の経験からどの葬儀社がどんなタイプかといった情報を得られるでしょう。いわゆる「くちコミ」ですからその人が信頼できる人である限り情報の信頼性も高いと言えます。Bは近年増えている事業で、あるエリア内で条件に合ったお葬式を請け負ってくれる葬儀社を紹介するという会社のことです。喪主や施主のまったく知らない地域でお葬式をしなければならない場合などには有用なこともあります。
 ただしBについて注意しなければならないのは「企業である限り有料である」ということと「施行実態を知らない葬儀社を紹介することも少なくない」ということです。「紹介料無料」をうたっている企業・NPOなども多くありますが、実際には消費者からは直接料金を取らなくても、後で葬儀社から紹介料を受け取るなどの方法で運営資金を得なければ会社そのものが成り立ちません。あるいはある葬儀社が自社に顧客を引き込むために、紹介サービスの会社を別立てしている場合もあります。またこれらの企業はある一地域に会社を置いて全国の電話を受け、それぞれのエリアの葬儀社を紹介します。そのためそれぞれのエリアの葬儀社を実際に訪ねて選別しているわけではなく、提携してくれる葬儀社を枠数を決めて募り、問題が起こったらすげ替えていくという方法を採っていることも多くあるのです。

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コラム 葬祭ディレクター


 葬儀業界に「葬祭ディレクター」という資格があります。1996年(平成8年)に誕生したこの制度は、業界人の意識・能力の向上や消費者利益の確保、またそれに伴う業界人の社会的地位向上などを目指す、厚生労働省が管轄する業界資格です。免許とは違いこの資格を持たなくても葬儀業を営むことはできます。

 近年流行の「お葬式セミナー」などでは、葬儀社選びの指針のひとつとして「葬祭ディレクターが在籍しているかどうかをチェックしましょう」と言われることが多くなりました。確かに資格を持っているということは、少なくとも業務に不可欠な能力や経験を持っているのだということを客観的に判断できますから安心感はあります。しかし注意しなければならないのは、葬祭ディレクターという資格が「必ずしも企業そのものの姿勢を保証するものではない」という点と「更新のない資格である」という点です。

 葬祭ディレクターは個人資格です。例えば葬祭ディレクター試験では消費者保護倫理についての設問があります。しかしこの試験において優秀な成績を修めた人が就業していても、企業自体が消費者保護倫理に篤いかどうかは保証されていません。
 また近年の日本のお葬式事情は急激に変化し続けています。ところがこの資格は一度取得すると生涯更新がありません。その中で取得者が常に学習や訓練を重ね、時代に即して向上していくこともまた保証されていないのです。

 葬祭ディレクターという資格そのものは、消費者にとっても業界にとっても大きな意義のあるものです。それでもあなたが消費者として葬儀社を選ぶ際には、ひとつの指針とはなっても過信はできません。資格の有無だけではなくさまざまな面から企業を評価し、あなたにとって最適な企業を選択するようにしましょう。

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棺を選ぶ


 棺(ひつぎ、かん)は遺体を納める箱のことです。現在の日本では火葬の都合から、遺体を寝かせた状態で納める直方体の木製の棺が用いられることが普通です。
 棺は最低限必要なもののうちでは価格が比較的高くなりやすいものです。予算と希望をよく考え合わせて選びましょう。

棺の種類と価格傾向

 棺の種類は外装から次の3つに大きく分けられます。

@ 天然木棺
 表面が天然木の棺。全面がそれぞれ一枚板でできているものは高価で、骨組みの上に薄い板を張っているもの(突き板張り)は比較的安価。多く使われている材料は桐だが、檜などを使った高価なものもある。輸入材は国産材に比べて安価だが、品質も落ちる場合が多い。彫刻を施したものなどもあり、細工を重ねるほど価格は高い。木材品質と細工の選択の幅が広いため、価格の幅も非常に広い。

A プリント棺
 表面に柄が印刷された洋紙を貼った棺。木目柄がポピュラーだが花柄などもあり、理屈では印刷できる限りどんな柄でもできる。天然木棺に比べて表面木材の質にこだわらなくてよいため、比較的安価になることが多い。印刷面はツルツルで汚れや水に強いが、熱には弱い。特殊なデザインのものはそれに比例して高価になる。

B 布張り棺
 表面を布で覆った棺。近年の流行で爆発的に種類が増えた。布の種類によって価格はピンキリだが、多少安価なものでもそれなりにきれいに見えるという強みはある。多くの場合、白色のものは有色のものよりも高価で、無地のものは柄のものよりも高価。なお写真では布の質感がわかりにくいため、想像と実物とのギャップが天然木棺やプリント棺よりも大きくなりやすいという欠点がある。

棺は必ずいる?

 棺は火葬場で遺体と共に燃やします。もちろん一回限りの使い切りです。そのため「ちょっともったいないね」という意見もたびたび聞きます。確かにお気持ちはわかるのですが…
 現代の火葬炉は棺を用いることを前提に造られています。もし棺なしで火葬すると、見た目が痛々しかったり、作業がスムーズにできなかったり、お骨がきれいに残らなかったり、炉が傷んだりすることが考えられます。ですから通常は棺に納めていないと火葬してくれません。必ずいるものと言ってよいでしょう。

棺の費用を抑えたい

 安価な棺でも、お葬式の間は別に作ったきれいな布を掛けるなどして見栄えよくしておき、火葬の際には棺だけ燃やして布はまた使うという方法があります。葬儀社が適当なアイテムを持っている場合もありますので、相談してみるのもよいでしょう。
 なお海外ではお葬式用には見栄えのよい棺を使い、その後簡素な火葬用の棺に移し替えるなどして火葬するケースが一部にはあるようですが、日本でそういうシステムを採用しているところは聞いたことがありません。

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遺体を搬送する


 現在一般的には遺体や棺は自動車で運びます。法律上は家族の車でも運べますが、設備のない車では遺体が大きく揺れて損壊したり体液が漏れやすくなるなど危険があるため、よほどの事情がない限りは専門の事業者に依頼して専用の搬送車両を利用することをお薦めします。ですから搬送車両は棺に続きほぼ必要不可欠なものと考えてよいでしょう。
 なお国内外を問わず遠距離の移送をする場合には飛行機や船を使う場合もありますが、あまりない例ですのでここでは詳細には触れません。

搬送車両の種類と料金

 搬送車両は大別して「霊柩車」と「寝台車」に分けられます。明確な基準はありませんが、おおむね遺体を棺に納めた状態で運ぶことを主目的とするものを霊柩車、生身のままで運ぶことを主目的とするものを寝台車と呼びます。
 寝台車はストレッチャー(台車付きの担架)を搭載しており棺を積載することもできますが、霊柩車は生身の遺体を積載できるようにはなっていません。それでも一般的に霊柩車のほうが内外装ともに凝った造りになっているため料金は高くなります。ですから見た目にこだわらないのであれば寝台車で出棺して料金を抑えることも選択肢のひとつです。
 霊柩車・寝台車とも基本的な料金システムは同じで、事業者の「車庫から起算し」病院や式場などポイントを経由して火葬場など「目的地まで」が運賃とされます。運賃は各事業者が地域の運輸局に届け出た金額で地域ごとに大体横並びですが、葬儀社などが収益を上乗せすることは認められていますので実際には料金はまちまちです。また運賃の他に「作業料」という名目の付加料金を請求することも認められており、このことも料金がばらつく理由となっています。

病院からの搬送を依頼する

 死亡から火葬までは特殊な事情を除き24時間以上が必要ですが、病院で亡くなった場合は一部のホスピスなどを除きそれまでに退去することを求められるのが普通です。看護士と死後処置の終了時間などを相談し、出発可能な時間や帰り先を決めてから寝台車を依頼しましょう。
 お葬式を依頼する葬儀社が決まっていればそこへ依頼します。決まっていない場合、近年は近隣の事業者リストが病院から示され遺族が選択して連絡することが多くなりました。また私立病院などでは特定の事業者(主に葬儀社)と提携していることもありますが、その場合でもすでに他の事業者を決めている場合はそちらに依頼できますし、出入りの事業者に搬送だけを依頼してお葬式は別の葬儀社に依頼することもできます。

搬送に際しての注意点

 遺体の搬送に際しては、できる限り「死亡診断書」ないしそれを役所に提出した際に発行される「埋葬火葬許可証」を携行しましょう。携行を義務づけるルールはありませんが、万が一搬送中に事故などが起こった場合に、証明を求められてもスムーズに対応できます。
 またごく稀なケースですがシートベルトをしていないなどで出棺中に警察に捕まるという実例も見られますので、悲しみで気が動転していても乗務員の指示に従って交通ルールはきちんと守りましょう。

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遺体を保全する


 遺体は時間の経過とともに腐敗していきます。それは自然な現象ではありますが遺族にとっては辛いものです。そこで遺体の腐敗を遅延させるための処置が重要となります。ただし24時間を越えてすぐに火葬する場合や、すでに腐敗が強度に進行していて処置が有効でない場合などには遺体保全処置を行わないこともあります。

遺体保全以前の処置

 通常は遺体の保全処置の前に遺体の見た目を整えます。近年は病院で遺体を拭き清める清拭(せいしき)と着せ替え、簡単な化粧などをしてくれることが多くなりました。病状が悪化して危篤状態になると「亡くなられたときにご本人に着せてあげたい服を病院に持ってきておいてください」と看護士からアドバイスを受けることも増えています。
 それ以上本格的な処置としては専門業者による湯灌(ゆかん・遺体を風呂で洗う儀式)がありますが、風習の減退や費用の比重などを背景に特に都市部においては実施されることが減少してきています。

ドライアイス処置と冷蔵庫保管

 日本における遺体保全処置のもっとも一般的な方法はドライアイスで遺体の温度を下げることです。成人の24時間あたりのドライアイス使用料は10kg程度で、お葬式の日程に合わせて適宜交換します。身体の大きな人の場合は使用量を増やすこともあります。冬季でも室内には生活温度があるため処置は重要です。
 ドライアイス処置を行った場合、室内の湿度が高いと遺体の周りに氷の粒が大量に発生します。またドライアイスは炭酸ガスの塊ですから、狭い密室では息苦しくなる場合がありますので適度に換気しましょう。遺体の近くで眠るときは、あまり近すぎると冷気で火傷したり酸欠になったりする可能性があるので気をつけてください。

 大きな病院や葬儀会館、火葬場などでは遺体をそのまま納められる冷蔵庫を保有しているところもあります。冷蔵庫の利点は全身をくまなく冷やせることとドライアイスのように凍傷が起こらないことです。欠点は遺体を施設に預けたままになるためお別れが十分にできない可能性があることや、見た目の露骨さ、また長身の遺体では棺に納める際に手足を曲げることが困難になるなどの点でしょう。また有料の施設ではドライアイス処置よりも高価になることがほとんどです。

エンバーミング(遺体衛生保全処置)

 もうひとつ、エンバーミングと呼ばれる処置があります。これは海外で生まれた技術で、遺体の血液を排出して代わりに防腐剤を注入し腐敗を遅延させるというものです。日本では1988年に導入され近年は少しずつ知名度も上がってきましたが、実施率は1%程度と伸び悩んでいます。理由は料金が高いことや実施施設・技術者が少ないこと、お葬式の日程が短くほとんどが火葬のため長期保存の需要が薄いこと、遺体に若干の切開を要するため心情的な抵抗が強いことなどが考えられています。
 エンバーミングをすると数週間は遺体の腐敗を遅延させることができるため、慌ただしくないお別れができて死別の悲嘆を和らげるのに効果的であると推進者は宣伝しています。また事故などで傷ついた遺体もある程度は修復できるという利点もあります。けれども技術料だけでなく施設までの搬送費用なども含めるとお葬式全体の費用に占める割合はずいぶんと大きくなることが多いので、各々の事情に合わせそれだけの価値を見いだせるかどうかは熟考すべきでしょう。

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火葬と拾骨


 2010年現在、日本の火葬率は99%以上です。法律上は土葬も認められていますが、実際に選択されるのは伝統的な風習の残っている地域やいくつかの宗教など限られた理由による場合だけというのが実状です。

火葬に必要なもの

 火葬には「火葬許可証」と定められた火葬場使用料が必要です。火葬許可証は役所に死亡を届け出た際に発行されます。またこの書類は火葬後に遺族に返還され、遺骨を墓に納める時にも必要になります。
 火葬場使用料は火葬場によって異なります。実際に火葬にかかるコストは大人一人あたり平均6万円ほどだと言われていますが、公営の火葬場では公金補助があり実際の料金は無料〜2万円程度であることが多いようです。ただし基本的にはその自治体の住民がサービスの対象ですから、自治体外の使用者は補助が少なかったり利用できなかったりする場合もあります。民営火葬場の料金は使用者の居住地によらず一律であることが多いですが、補助のない分料金は高く場合によっては施設使用料を含め10万円を超えることもあります。なお火葬場使用料は葬儀社の料金と違い普通は公開されていますので、気になるようであれば事前に調べておいてもよいでしょう。

拾骨(骨揚げ)する

 火葬後には拾骨(骨揚げ)をし遺骨を持ち帰ります。持ち帰る遺骨の量は地域の慣習によりさまざまで、例えば関東では全ての骨を拾骨し、関西では全体の5分の1から3分の1ぐらいの量の骨を全身から少しずつ拾うのが一般的です。遺族の希望によっても量は加減できますが、火葬場によっては全骨の持ち帰りを規則で定めているところもあります。
 拾骨には容器が必要で、普通は「骨壺」と呼ばれる陶器や磁器の壺が用いられます。骨壺の多くはさらに「骨箱」と呼ばれる木製の外箱とセットになっていますが、これは遺骨を持ち帰る間に骨壺に衝撃が加わって割れるのを防ぐためです。骨壺のサイズは拾骨する量によって変わり、全骨の場合は直径20〜25cm(7〜8寸)程度、関西の量では直径12〜15cm(4〜5寸)程度が一般的です。また遺骨を複数箇所に分けて納める「分骨」のために、さらに小さな骨壺が用いられることもあります。なお骨壺は葬儀社から買うか火葬場で買うのが普通ですが、骨壺を販売していない火葬場も多いので、葬儀社を利用しない場合は事前の確認が必要です。

遺骨を持ち帰らないことはできる?

 時折、宗教的な理由や墓の事情などで遺族が遺骨を持ち帰りたくないと希望する場合があります。法律上は火葬後に遺骨を持ち帰らなければならないという条文はないのですが、刑法の遺骨遺棄に相当するという解釈もあり統一的な見解はありません。そこで可能かどうかは火葬場の規則によるということになります。
 もともと部分拾骨が一般的な関西などでは拾われなかった骨は火葬場が共同で埋葬するため遺骨を持ち帰りたくないという希望も許可される場合がありますが、関東など全部拾骨が一般的な地域では持ち帰りを義務づけている火葬場が多いようです。確認の上、ルールに従ってください。
 確かに墓を持つことが経済的に重負担となっている昨今では、行政が住民に対して無料の合葬墓を造るなど最低限の葬りを保証する体制を早急に整えなければならないと言えます。 

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コラム「お葬式は最低いくらからできますか?」


 近年「お葬式は最低いくらからできますか?」という問い合わせが会社にかかってくることがままあります。けれどもこんな時、すぐにはお答えすることができません。「あなたが最低限と思うお葬式はどういうものですか?」と逆に問いかけると、みんなそれぞれに答えが違うからです。
 「100名ぐらいの会葬者が来る一般に公開されたお葬式」の最低金額を聞きたい人もいれば「家族と友達20〜30人で慎ましくお葬式」や「直近の家族2〜3人だけで、短くお坊さんに読経してもらうだけ」というのを想像している人もいます。むしろ「まったく火葬だけです、何もしません」という人のほうが少ないくらいです。

 「物理的な最低限」はこれまで挙げた棺・車両・ドライアイス・骨壺・火葬料金、そして葬儀社の手間賃だけです。けれども「気持ちの最低限」は本当にそれだけでしょうか。
 私がお薦めしたいのは、逆に「最大限」を想像することです。初めは「してあげたいことの最大限はこれぐらい」です。けれど実際にお葬式には沢山のお金がかかります。思ったこと全部するのは大変です。だから次は「かけられるお金の最大限はこれぐらい」です。そしてその想いを葬儀社や宗教者に投げかけて相談しながら、無理なところは少しずつガマンしたりほかのものに変えていけば、そのうち自然と落ち着くところに落ち着くはずです。

 「お金がないから何にもしない、直葬だ」と簡単に言ってしまう人がいます。けれどももう一度、自分たちの必要としているものは何か、まずはそこから考えてみてほしいのです。「お線香だけ手向けてあげましょう」「小さな花束だけ棺に入れてあげましょう」というお葬式も、「祭壇にお花いっぱい、棺もキレイな最上等のものを」というお葬式も、送る人たちにとっては等しくかけがえのないお葬式なのですから。

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遺影写真を作る


 昭和の初期ぐらいから普及し始めた遺影写真は、少し前まではお葬式には「あって当たり前」なアイテムのひとつでした。近年では特に近親者を中心とした小規模なお葬式では作らないという選択も少なくはなくなり、またデジタル加工技術や液晶パネルなどの発達によりこれまでと違ったサービスも見られるようになりました。

遺影写真の原稿

 現在遺影写真の原稿に使われるのは @プリントした写真 Aデジタルカメラのデータ のどちらかがほとんどです。プリントした写真もPC(パソコン)のスキャナで読み取りデータ化した後ソフトウェアで加工されます。そのためもともとデジタルカメラで撮影されたものはプリントせずにデータから直接加工したほうが綺麗です。
 ネガを持っている場合は写真屋さんで大きめの印画紙にプリントしてもらうと加工の仕上がりも比較的綺麗になります。また背景消去などの加工の必要がない写真であれば、写真屋さんでそのまま遺影写真を作ってもらうこともできます(適当な額縁が必要です)。

 原稿写真を選ぶ際にはできるだけ次のような点に気を付けましょう。
・ピントが合っている(本人が中央にいたりすぐ後ろが壁だとピントは合いやすい)
・画像が大きく細部までしっかり写っている
・本人の腹から上ぐらいが写っており、他の人や物で隠れていない
・明るすぎたり暗すぎる場所で撮っていない
・プリントの場合、絹目でないほうがよい(スキャンした際に凹凸が映り込むため)

遺影写真のサイズ

 遺影写真というとよく出棺の時に遺族が胸の前で持っているイメージがあると思いますが、あの一般的なサイズは「四つ切り」と呼ばれています。四つ切りは印画部分がおよそ254×305cm(A4より少し大きい)で、さらに写真額の枠の分大きくなるので全体はB4強〜A3前後ぐらいのサイズです。
 お葬式の時にもこの四つ切りの遺影写真を祭壇に飾ることが多いのですが、式場が会館に大きくシフトした昭和の終わり頃からは空間の広がりに対応するため祭壇には「半折」と呼ばれるおよそ356×432cm(面積が四つ切りの2倍)のサイズの写真を飾り、出棺時には別に用意した四つ切り写真を遺族が持つというケースも見られるようになりました。
 このほか大規模な社葬などでは何メートルもある巨大なパネルを作成したり、逆に小規模なお葬式では自宅にあるLや2L判などのスナップ写真をそのまま飾るといったケースもあります。

変化する遺影関連商品・サービス

 半折写真が用いられるようになった少し後からは、プラスチックフィルムに印刷した遺影写真にバックライトを当てて明るく見せる「電照写真」と呼ばれる商品も一部で流行しました。さらに近年では大型液晶パネルを祭壇に設置して、お葬式中は遺影写真、その前後はスナップ写真のスライドショーを写すなどのサービスを導入している葬儀社もあります。
 ほかにも式場入口や待合室などに電照写真や液晶パネル、さらに複合的に音声装置などを使ったメモリアルコーナーを設けるなど、遺影写真からさまざまに発展したサービスが考案されています。また近年ではPCの発達によって音声付きスライドショーなどが家庭でも手軽に作れるようになったため、亡くなったかたや遺族が自分たちで作ったものをノートPC本体ごと持ち込むケースなども若干見られます。

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祭壇飾りを選ぶ


 「葬式といえば祭壇」と認識されるように、戦後日本のお葬式は見た目も料金も祭壇を中心に構築されてきました。しかし近年では「大きな祭壇を飾るのが立派な葬式」という感覚は大きく崩れ、意味付けも含めてさまざまに考え直されるようになってきています。

白木装飾中心から生花装飾中心へ

 これまでのお葬式の祭壇といえば、数段の台の上に白木の装飾品を乗せたものをイメージされることがほとんどでした。これらの装飾品は主に祭壇文化以前、墓地まで葬列を組んでいた時代の名残です。例えば上段に置かれる宮飾りは「棺前」などと呼ばれ、葬列の中で棺を運ぶ輿(柩)の天蓋を模したものですし、両脇に三灯ずつ一対で置かれる灯籠「六灯」は、死者の行く六道を照らす道明かりとして葬列の中で掲げられたものです。
 高度経済成長期に祭壇規模が拡大していくに伴い、白木装飾のほかに生花装飾を付加することが多くなりました。そして近年白木装飾の意味もほとんど忘れられ、中心となる装飾も白木から生花へと需要が大きく移り変わってきています。

 ただしこのように祭壇のスタイルが大きく変わったのは、最も社会文化の影響を受けた仏教系のお葬式が中心でした。例えば神道系のお葬式では、神葬が一般にも行われるようになった明治期以降から現在まで、ご神体を上段に据えて前に饌を並べ、生花は置いても脇のほうという祭壇のスタイルを維持しています。キリスト教系ではもともとここで言う祭壇を設置する感覚はなく、量の多少は違えど柩の周りを生花で飾るというシンプルなスタイルは昔から変わっていません。

白木装飾と生花装飾それぞれの長短

 白木装飾、生花装飾にはそれぞれ次のような長短があります。白木と生花はどちらか一方だけということではなく、多くは両方を組み合わせて祭壇を形作っています。

◇ 白木装飾の長短
 昔からありお葬式のイメージとして定着している(長所でも短所でもある)
 個々の装飾にボリュームがあり、コストのわりに立派に見える(長所)
 スケールが決まっているので空間に対して融通が利きにくい(短所)
◇ 生花装飾の長短
 好みや予算に合わせてスケールやデザイン、色目を自由に構築できる(長所)
 生花の質や量によって価格のばらつきが非常に大きく、比較もしづらい(短所)

祭壇料金は最後に考える方がよい

 祭壇はお葬式の中で最も目立つものではありますが、棺や搬送車両などに比べると必要性は低いものです。予算がいくらでもある場合ならばどこから考えても大丈夫ですが、普通は限りがあるので祭壇料金はそのほか必要性の高いものより後に考えた方がよいでしょう。もしそのほかのもので予算がいっぱいになってしまったら、小さめのかご花を柩の枕元に置いてあげたり、切り花を柩の中に飾ってあげるだけでも私は構わないと思います。

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コラム「祭壇料金」は何の料金?


 日本では90年代からお葬式に関する情報の流通が急激に加速しましたが、当時真っ先に、そして今日まで一貫して世論の批判の対象になっているのが「祭壇料金の不明瞭さ」です。日本の葬儀社の多くは、スタッフの人件費や会社維持費の多くを祭壇と組み合わせて設定しています。そのために祭壇料金(葬儀社によっては基本料金などの名称)全体に占める祭壇実質の料金(白木装飾のレンタル料や生花装飾の料金)の割合が低く、消費者が不条理を感じているのです。
 この問題には日本の葬儀業者の成り立ちそのものが深く関わっています。日本ではもともと葬具の販売・貸出や生花の販売などを行っていた人々が葬儀業者に転身したケースが多く、その業務の中心となるものは物品販売でした。しかし戦後お葬式の大型化・個別化とともに施行の中心を担う者が地域共同体から葬儀業者に大きく移り、葬儀業には人的サービスや会館など(いわゆる箱モノ)の設備も多く求められるようになってきます。そのため初めはわずかだった祭壇料金に占めるこれらの料金の割合はどんどん膨らみ、近年では祭壇実質の料金とその比重がまったく逆転してしまったのです。

 90年代以降、消費者理解を求めるためにこの問題を解決しようとした葬儀社もありましたが、その道はふたつの大きな理由から非常に困難でした。
 ひとつめは拡大した人的サービスの中には「消費者に直接見えないサービス」が多かったことがあります。例えば現在では当たり前の24時間の受付を行うためには、たとえ業務が無くても人員を配備しておかなければなりませんので、これら「待機人件費」も料金の中に振り分けておかなければなりません。また「ゆっくり時間をかけて遺族の話を聞く」ことなど、近年需要の高まっている遺族の心的サポートなどについては個別性が強すぎる上に実体が無く料金を設定することそのものが難しかったのです。
 ふたつめは80年代中期以降、バブル期の「会館ラッシュ」によって建てられた葬儀会館の建築維持費の問題があります。建築計画の多くは祭壇料金に建築維持費を含めることで会館を利用する人もしない人もある程度の割合で費用を負担してもらおうというものでした。しかし建築維持費を分離することで会館を利用しない人が増えれば、会館の維持ができないだけでなく企業の存続そのものに関わる危険性もあったのです。

 現在でもこの問題の解決に向けてはさまざまに試みが続けられています。祭壇実質料金の分離、人的サービス料の分離、会館維持費の分離などを実行している葬儀社もあります。葬儀社が消費者に対して丁寧に説明責任を果たすことが必要であるとともに、消費者も自分たちが何を求め何にお金を払っているのかを正しく考え直し、お互いが向き合って一緒によいお葬式を作り上げていくことが社会に求められています。

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式場の表飾り


 式場の表飾りには風習と、告知や会葬者の利便という二種類の理由が混在してます。近年ではお葬式の小型化や住宅の構造などにより式場の表飾りの一部や全体を省略することも多くなっています。

式場表看板・めいき

 式場の表に立てる故人の名前を書いた大きな看板は「めいき」とも呼ばれ、名木・銘木・銘旗などと書かれます。葬列で掲げられた故人の名を記した旗である「銘旗」が、葬列の減退とともに斎場(お葬式の式場)の告知板として固定化されていったものです。
 めいき板はこれまで10尺ほどの長さの生木が主流で、墨で文字を書きお葬式が終わればカンナを掛けてまた次に使われていました。近年は木目調の化粧板に文字シールを貼っていることが多いでしょう。式場の構造によって立てる場所がなかったり、目立つ看板を好まない消費者のために大理石調などの化粧板を用いた5〜6尺程度の自立式看板も増えています。また通夜の告別式化に伴い、夜間でも見やすいようにとプラスチック板の裏からライトで照らす看板もあります。
 仏教のお葬式では広く用いられます。神道のお葬式でも用いられますが、本来の旗型の「銘旗」を柩の上に掛けることが多いために、この看板をめいきとはあまり呼びません。キリスト教のお葬式でも式場の案内として立てられることは多くありますが、これもめいきと呼ばれることはなく、また大仰な雰囲気を嫌って大きめの紙に必要な情報を書いて立てるにとどめることも少なくありません。

門灯・門前提灯

 式場入口の両側には一対の提灯(ちょうちん)が立てられます。門灯や門前提灯、単に門前や提灯と呼ばれることもあります。これも葬列で足下を照らすために掲げられた松明や提灯が変化したものです。現代では夜間も街が明るく歩くにも不自由は少ないため、会葬者の足下を照らす明かりとしての意味は薄れています。
 仏教や神道のお葬式では用いられますが、キリスト教のお葬式では用いられません。

表樒

 門灯の脇に一対立てられる深緑色の葉のついた木は樒(しきみ)と呼ばれる香木です。関西では「しきび」と読まれることもあります。
 この木には毒もあり、古くは土葬墓が獣に掘り返されるのを防ぐために墓地の周囲に植えられたこともありました。そのためお葬式が屋内で行われるように変わった後も、樒を祭壇の両脇と式場の表に一対づつ立てることで結界のように葬送空間を囲い、死者を魔から守ろうという風習は残りました。さらにその後祭壇文化の隆盛とともに祭壇脇の樒はその意義を失い、表の樒だけが残るようになったのです。
 仏教のお葬式では広く用いられていますが、神道のお葬式では榊で代えられたりまったく用いられないこともあります。キリスト教のお葬式では用いられません。

葬儀社の商品としての表飾り

 葬儀社の商品として「表飾り」というと主にこれら三点のセットのことを指します。また付属的には看板や提灯の足下などを飾る生花や、式場周りに白黒ストライプの「くじら幕」を張るサービスなどを含むこともあります。これらが部分的に不要な場合には葬儀社と相談してみてください。ただしその分料金を引いてくれるかはそれぞれの葬儀社の料金規定によります。
 またお葬式が大型化した昭和期の終わり頃には、式場入口の周りに小型庭園風の飾り付けをすることが一部では流行しましたが、近年ではほとんど見ることがなくなりました。それでも互助会の古い会員などの場合には、加入当時に約束されたサービスとして提供されることもあります。

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枕飾りと後飾り


 お葬式の中心である葬儀告別式から少し離れ、その前後に用いられるものについて見てみます。お葬式は葬儀告別式だけでなく全体を通して意味のあるものですから、準備に際しても広く全体を見渡して必要なものを考え、予算を組みましょう。

枕飾り

 枕飾りとは一般的には仏教のお葬式で臨終から葬儀告別式までの間、故人の枕元に置く一揃いの道具のことです。経机という小振りの台に、線香を立てる香炉、ロウソクを立てる燭台、樒の枝を一本立てる花立、小さなりんなどの道具を乗せます。線香やロウソクなどの消耗品のほか、お葬式に備えるために位牌や経帷子(死装束)なども含めて一揃いとされることが多いでしょう。さらに葬儀社によっては枕飾りの脇などに置く枕花(かご生花など)まで含めて枕飾りとして販売されていることもあります。
 経机などの道具類は多くの場合一件ひとつの消耗品ですが、一部には漆塗りなど高級感があり耐久性の高い道具を貸出としている葬儀社もあります。また仏壇のある家庭ではこれらの道具は仏壇に同様のものがあるため代用が利きますが、地域などによっては仏壇の道具を新しい死者に使ってはいけないと戒められることもあるようです。

 神道のお葬式でも類型の道具が用いられます。経机の代わりに小振りの案(八足)を置き、火立、榊立、酒を入れる瓶子、水を入れる水玉、生米や塩を乗せたカワラケ(小皿)などを配します。葬儀社の商品としては霊璽や装束なども含まれているでしょう。
 キリスト教のお葬式では枕元の適当な小机に十字架を立て、聖書を置き、燭台を立てることもあります。ただしこれはどちらかというとカトリックに多く見られ、プロテスタントでは必要とはされていません。枕花を置くことは教派問わず比較的多く見られます。

後飾り

 後飾りとはお葬式の終わった後、遺骨の納埋骨までの間自宅などに設置する簡易祭壇のことです。仏教のお葬式では四十九日までの間を中陰期間ということから「中陰壇」「中陰飾り」と呼ばれることが多く、他の宗教では「後飾り」「後祭り」などと呼ばれることが多いでしょう。
 中陰壇は道具や遺骨・遺影などを置くための2〜3段の台と、位牌台、遺骨台、遺影立、供物台、燭台、花立などで構成されています。枕飾りと同じく白木作りで使い切りのものが一般的ですが、漆塗り壇などを貸出とする葬儀社も一部にはあります。
 神道のお葬式では饌(お供えの食物)を並べるために3段程度の壇がやや多いでしょう。キリスト教のお葬式では後飾り自体があまり見られず、小机に遺骨と小さめの遺影、また枕飾りに準じて十字架や聖書などを並べるだけに止めることが一般的です。

 葬儀社で販売される後飾りは特に宗教的に定められた様態を採っているわけではなく、遺族が適当な場所や道具を揃える手間を省くためのものだと解釈して構いません。そのため家にある適当な台に白布などを掛けて壇代わりにすることや、枕飾りの小机に最小限のものを詰めて乗せることもあります。予算と相談したいところです。
 なお多くの葬儀社では、納埋骨が済んで要らなくなった壇は引き取って処分してくれます。壇そのものには宗教的意味合いが薄いので、気にならないようなら家庭でゴミに出しても構いません。

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弔意を表す儀礼


 お葬式では多くの場合、焼香・玉串奉奠・献花など宗教儀礼と弔意の表明が混ざった儀礼が行われます。宗教によるお葬式を選択した場合には、何を必要とするか宗教者とよく相談しましょう。無宗教の場合は送る人たちの気持ちの問題ですので、家族などでよく相談しましょう。なお葬儀社を利用しない場合は個人でも準備することができます。

焼香

 焼香は主に仏教のお葬式で行われる儀礼です。香炉の中で炭を焚き、抹香(粗い粉末状にした香木)をくべます。焼香に対する考え方は宗派や習俗により多様で、仏法僧に捧げ拝礼の象徴とするため、自らの心身を清めるため、死者に捧げ食物とする(香食)ためなどの意義で捉えられ、混在していることもあります。
 キリスト教でも香を祈りの象徴として祭儀や礼拝に用いる教派もあります。この場合は抹香ではなく練り香(香木や樹脂香などを練り固めたもの)などを用いることが多いのですが、カトリックなど一部教派でお葬式に焼香を採用する場合は利便性や扱いやすさから抹香を用いることが多いようです。
 実際のお葬式では葬儀社がセットの内容として「焼香設備一式」などと表記することは少なくありませんが、焼香そのものに単価を設定していることはまずありません。これは仏教のお葬式の多さから焼香がほぼ必要なものと理解されていることや、お葬式で実際に消費される抹香や炭の量に対して単価を設定しづらいことなどが理由です。ただし家庭に持ち帰る場合などには道具と小口に分けた消耗品をセットにして販売価格を設定していることもあり、また仏壇店などでも同じような様態で入手できます。

玉串

 玉串奉奠は神道のお葬式に独特の儀礼で、榊などの枝を神霊に捧げます。玉串奉奠の意義は必ずしも明確ではありませんが、榊などを神霊の依代として捉える場合があることから、人間と神霊の交流のための儀礼として発達したのではないかとも想像できます。
 お葬式用の玉串は葬儀社が10本などの単位で必要数を準備します。神職用の大振りの玉串と会葬者用の小振りの玉串を別に用意することも多くあります。少数を個人で用意する場合は榊を扱っている生花店などを探し、適当な長さに切り揃えます。紙垂(しで)などと呼ばれる飾りを付ける場合は、神具店で購入するか自作します。
 なお「焼香」や「献花」という言葉は香や花そのものの名称と儀礼行為の両方を指しますが、「玉串」は榊などの枝そのものを指し、儀礼行為は「玉串奉奠(拝礼)」と呼ぶ点が前二者と異なります。

献花

 献花は死者に生花を献げる儀礼です。これは古くから変わらず人間の根源的な感情の発露としての行為と位置付けられることが多く、多少の様態の違いはあっても民族や宗教を問わず行われます。よくイメージされる、キリスト教や無宗教のお葬式で多い会葬者ひとりひとりが一輪ずつの切り花を死者に献げるスタイルは日本独特のものです。これは弔意の象徴としての儀礼で、日本人の感性に沿う形で発展したものです。
 献花に用いられる花は、扱いやすさなどから菊やカーネーションが多く見られます。少し前までは白一色であることが多かったのですが、お葬式全体の意識の変化と共に有色の献花も増えてきています。献花用の生花はおよそ葬儀社が10本などの単位で必要数を準備します。見た目を整えるために茎の末端にアルミホイルなどを巻いていることも少なくありません。個人で用意する場合は生花店で好みの花を購入し、適当な長さに切り揃えます。
 キリスト教のお葬式では献花が規則のように思っている人も多いようですが、前述のように宗教的意味合いはありません。そのためお葬式の様態によっては儀礼的な献花よりも棺に花を入れる原点的な献花を推奨されることもあります。

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受付と路上案内板


 お葬式に家族や近親者以外の参列者が来る場合、その利便性を考え受付を設けたり式場の場所を示す案内板を路上に立てたりすることが一般的です。ただし近年特に都市部ではお葬式の規模が縮小する傾向にあるため、参列者が親しい少数の人々だけならばこれらを設置しないことも少なくありません。

受付と記帳

 受付は式場の入口付近に設けられます。葬儀会館の場合は屋内に専用のスペースを確保してあることが多いのですが、戸建ての自宅や集会所などを式場とする場合には屋外に簡易テントを建てるなどして受付を設置することも少なくありません。ただし強い雨や風、暑さ寒さが厳しい場合などには多少狭くとも屋内に受付を設置するなど、状況に応じた配慮が必要です。
 受付で行われることは主に参列者の名前・住所などの記帳や香典の受け渡しなどです。また会葬御礼品や御礼状、式次第など印刷物がある場合にはその配布が行われることもあります。供花などの料金を支払う係が設けられることもあります。さらに近年一部で見られる香典の「即日返礼」を受付の一角で行う場合もあります。

 受付の人員は一般的に傍系の親族や遺族の友人、近隣の人や会社関係者などに手伝いを依頼することになります。同じ宗教のコミュニティの人が手伝ってくれることもあります。葬儀社に委託できる場合もありますが、スタッフが増えれば人件費がかかることも視野に入れておかなければなりませんし、事前に打ち合わせしておかなければ調整がつかないこともありますので注意が必要です。
 また香典を受け取る場合には、親族や親しい友人など現金を預けられる信用のおける人にも手伝ってもらうほうがよいでしょう。この点に関しては葬儀社は依頼されても現金に対する用心の観点から断ることが普通です。

 記帳のための帳面や筆記具は葬儀社に依頼すれば準備してくれますが、個人で用意する場合は市販のノートや鉛筆などで代用しても構いません。近年は参列者が一人ずつ記名するカード型の用紙を採用している葬儀社も増えてきています。また都市部などのごく一部の葬儀社では、その式場専用の電子機器による記名システムを導入しているところもあります。

路上案内板

 参列者たちが式場の場所に不案内な場合には、式場近辺の路上に案内板を立てることがあります。おおよそわかりやすいポイント、例えば駅や大きな交差点などを起点に、徒歩や車それぞれで迷わないよう配慮しながら適宜立てます。
 自宅で親しい人しか参列しないような場合や、式場の場所が誰にでも明らかにわかる場合などには設置しないことも少なくありません。また何らかの事情で設置してほしくない場合にはあらかじめ葬儀社にその希望を伝えておくことも大切です。
 なお葬儀社に委託せずに個人で設置することは一般的ではありませんが、もしその必要がある場合には既存の道路標識が隠れたり交通の邪魔にならないよう十分に配慮しなければなりません。また終了後は直ちに撤去しましょう。

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御礼品と御礼状


 お葬式の参列者には御礼の品物や御礼状が配られることが少なくありません。もっとも近年では「形式張っている」とこれらを嫌う人もいますし、参列者が少人数の親しい人ばかりで後に個別に御礼に伺う場合などには式場での一律配布はしないこともあります。
 参列者の人数が多いほど費用はかさみますので、特に香典を受け取らない場合などには予算とのバランスをよく考えておく必要があります。

御礼品(供養品)

 参列者に対して配られる品物を「御礼品」「会葬御礼品」などと呼びます。また「供養品」や謙って「粗供養」と呼ぶ地域もあります。名称の違いはもともとの意味付けの違いが影響していると言われており、御礼品と呼ぶところでは参列の労に報いる感謝のしるしという意味、また供養品と呼ぶところでは遺族が金品を誰彼なく振る舞う(布施する)ことで功徳を積み、それを故人に振り替えて供養するという意味があったようです。
 現在では供養品と呼ぶ地域でも実質的には参列者への感謝のしるしと捉えられていることがほとんどです。また香典金額の抑制運動などを行ってきた地域や、香典返しを受け取ったその場で行ういわゆる「即返し」が普及した地域では、御礼と香典返しを兼ね合わせているものと考える場合もあります。

 御礼品の品種は、茶・コーヒーなど飲料、砂糖や海苔などの食品、タオルやハンカチなど繊維もの、筆記具や封筒など文具、石鹸や入浴剤など雑貨、商品券やプリペイドカードなど金券、といったものが多いでしょう。金額は税別で500円〜1,000円ぐらいの範囲が多く見られますが、香典返しを兼ねる場合はまちまちです。
 菓子の詰め合わせなどがあまり見られないのは、お葬式では消費が安定しにくいために賞味期限の設定や在庫管理が難しいということが理由として挙げられます。昭和期にはテレホンカードが流行した時期もありましたが、近年は携帯電話の普及に伴い見られなくなりました。また商品券が流行した地域も一部にはありましたが、金額がはっきりわかることを嫌がる人もあり、さらに葬儀社に収益がない(仕入額と販売額の差が設けにくい)ために遺族が百貨店などで直接購入することを要請されることも少なくありません。

 なお御礼品の配布は入場時に受付で行われる場合や終了後に出口で行われる場合など、地域や葬儀社の習慣、式場の広さや動線の都合、参列者の人数や受付のキャパシティなどによってもさまざまです。

御礼状(挨拶状)

 御礼品には参列の感謝や挨拶を記した御礼状が添えられることが一般的です。おおよそそれぞれの葬儀社は台紙や定型文を持っていますので、その中から選んで氏名や日付などを加えることが普通です。また氏名などを加えない完全に出来合いの簡単な御礼状を安く提供している場合もあるでしょう。
 近年は家庭用PCやプリンターの性能も上がっていますので、少数であれば自作する人もいます。文例は書籍やインターネットでも多数紹介されていますし、台紙は文具店やギフトグッズ店などで購入できる場合もあります。

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飲食


 お葬式の中での飲食は、地域などによってその持たれかたが大きく異なります。その性質で考えると「通夜の食事⇔お葬式後の食事」や「親族のための食事⇔参列者のための食事」などに大きく分けられますが、それらの掛け合わせによって多様性が増しているのです。またその文化的背景や意味付けも「生者のための食事⇔死者のための食事」や「肉体のための食事⇔霊のための食事」など多様で、同じ行為でも地域などによって説明のされかたが異なることも少なくありません。

食事の内容と調達

 旧来の仏教では、葬儀の間は参加者は身を慎んで精進するようにとの考えから食事の内容も肉や魚を避けいわゆる「精進料理」であったようですが、現在では一部の宗教や地域を除き食事の内容にはっきりとした制限は見られません。飲酒も(もちろん運転手以外には)許容されていることが多いでしょう。不特定多数の人に供する場合はスシ(寿司の字を避け鮨などと書く)などの盛り合わせ、また参加者が特定できている場合は一人分ずつの会席料理や弁当などが用意されることが多いでしょう。時には中華料理店や西洋料理店などで食事をするケースも見られます。
 食事の調達は葬儀社に依頼して提携店から行われることが少なくありませんが、自分たちで日頃付き合いのあるお店などがあれば直接注文や予約をしてもよいでしょう。ただし一般料理店ではお葬式のタイムスケジュールや式場の備品などに詳しくないことが普通なので、配達のタイミングや割り箸・取り皿などの備品についても葬儀社ともよく相談しておく必要があります。また配膳や給仕などを依頼すると別料金がかかるケースもありますので、それぞれの事情に合わせてよい方法を考えましょう。

通夜の食事⇔お葬式後の食事

 旧来は通夜の過程で、現在は通夜の日に行われる式の終了後などに持たれる食事は一般に「通夜振る舞い」などと呼ばれます。また旧来は忌明けなど、現在では多くの場合葬儀告別式の当日に持たれる食事は「精進上げ」や「精進落とし」などと呼ばれています。
 葬儀告別式当日の食事のタイミングも地域によって違いが見られます。火葬時間が比較的短い地域ではその日のスケジュールがすべて終わった後で、また火葬時間が比較的長い地域ではその待ち時間を利用して食事をするなどです。
 キリスト教のお葬式などでは「通夜」「精進」という語は仏教的だとして用いられないことが普通ですが、別段に代わりとなる用語があるわけではなくただ単に「(どのタイミングの)食事」と呼ばれることが多いでしょう。

親族のための食事⇔参列者のための食事

 食事には親族や特に親しい人だけが参加する場合と、一般の参列者に広く参加してもらう場合があります。この点に関しては地域慣習が非常に大きく影響します。それ以外の観点では、例えばどちらかの日だけに一般参列者にも参加してもらうならば、比較的時間や移動の制限が少ない通夜の日にそうすることのほうが都合がつきやすいでしょう。

食事の意味付け

 食事の意味付けについては宗教・思想・文化的背景によってさまざまです。詳細な考察は省きますが、「食事の力で死者を呼び戻す」「生者に死の力が及ばないように守る」「共同体の結束を強める」「布施として行う」など幅広い解釈が見られます。

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そのほかの費用


 お葬式にはこれまで述べてきたもののほかにも、例えば次のような費用がかかる場合があります。葬儀社との打ち合わせの際にはここに挙げた以外のものなどでも追加費用が発生しないかよく確かめましょう。

式場使用料・式場設営費

 式場を借りる費用、また葬儀社が式場を設営する費用。基本的には別のことを指しているため両者は二重にかかるが、式場運営と葬儀施行の主体が同じ場合などには一括で請求されることもある。自社会館の場合は式場使用料、出張施行の場合は式場設営費と分ける葬儀社もある。なおこれらは祭壇料金などに含む葬儀社もあれば、別途項目を挙げて請求する葬儀社もある。

役所手続代行料

 死亡届の提出や火葬場の手続などを遺族に代わって行うための手数料。死亡届などの書類を代わりに作成してしまうと行政書士法に違反するが、提出には制限がないとされている。祭壇料金など基本的サービス料に含む葬儀社が多く、別途項目を挙げて請求する葬儀社は稀。そのため、遺族が提出を行っても値引をしてくれることはまず無いと思ってよいだろう。

テント・イス・照明・冷暖房 等

 参列者の規模が式場のキャパシティを超える場合などに屋外に設営されるテントなどの費用や、式場・テント内などのイス、照明、冷暖房などの追加設置のための費用。旧来の自宅や集会所、宗教施設などでの施行では利用されることが多かったが、近年では式場が葬儀会館にシフトしたことや参列者規模が縮小していることなどから需要は減少している。

タクシー・マイクロバス

 主に式場⇔火葬場やその後の飲食店などへの移動に使われる車両の費用。式場への交通の便が悪い場合などに自宅などからの移動にも用いられることがあるが、その際にはお葬式の時間中の留置料金などにも注意する必要がある。基本的に時間貸で普通の利用よりも割高だが、特に都市部での出棺に流しのタクシーを拾うのは火葬場の入場時間の都合などからあまり安全ではない。なお火葬場によっては駐車場スペースの都合などから自家用車の入場台数が制限されている場合もある。

式次第

 式順(プログラム)などを印刷したものを作る費用。キリスト教や無宗教のお葬式で多いが、ほか宗教でも用いられることはある。通常、印刷物は作製枚数が少ないほど割高になるため、商品としての式次第は最低枚数(初版)が設定されていることが多い。無くても多少不便なだけでお葬式はできるので、近年では費用を抑えるために省略されることも少なくない。

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