プロテスタント葬儀用 式次第(印刷物)の作成


▽ はじめに

 キリスト教専門でない葬儀社が教会葬儀の依頼を受けたとき、よく困るのが式次第の印刷であると聞く。ほかのテキストでもたびたび述べているように、一般葬儀社ではキリスト教葬儀を行う機会などそう幾度もなく、ノウハウを蓄積できないからである。
 近年はパソコンの普及で、印刷物も手軽に作れるようになったため、特に若い世代の牧師では外注せずとも自分で作るという方も多い。しかし、できるとはいってもそれだけ牧師や教会員の負担は増えるわけであるから、無理のない程度に葬儀社に委託できる体制があればなお良い。
 そこで、今回はサンプルとして添付したレイアウト例を基に、一般葬儀社向けに式次第の作成に関するアドバイスをしてみたいと思う。
 なお、ここで述べているのは一般的なプロテスタント葬儀の式次第についてである。

▽ サンプルデータ

 今回は、2種類のサンプルデータ(式次第A、式次第B)を用意した。データフォーマットは、汎用性を重視してWindows+Word形式で作成しているので、必要に応じてダウンロードして使用されたし。(個人的にはぜひ一太郎を使いたいが)

 サンプルデータダウンロード (圧縮ファイル。ファイルを開けば自動解凍)


▲ サンプルデータ1(式次第A.doc) 3ページ

▲ サンプルデータ2(式次第B.doc) 表紙+2ページ

▽ 用紙とページ配置

 サンプルデータは、A5見開き(横向けのA4用紙を半分に折った状態)で作成してある。実際の作成に際してはサイズは自由であるが、小さすぎては高齢の参列者などには文字が読みづらいし、大きすぎては持つのに邪魔になるため、片面A5〜B5程度が妥当であろう。また、キリスト教書店などで販売されている式次第専用紙は片面A5サイズである。
 用紙は普通のコピー用紙でも足りるが、両面印刷をすると背面がやや透けて見えるので、予算や調達などの事情が許せば中厚の用紙を使用したい。なお、染料インク(普通のプリンタ)でなく顔料インク(家庭用でも一部にある)やトナー(コピー機や輪転機)であれば、コピー用紙であっても比較的透けにくい。

 今回のサンプルデータ1では、あえて表紙を作っていない。というのも、前述の式次第専用紙は表紙に写真が印刷されているからである。専用紙でなく白紙の厚紙などを使用する場合は、サンプルデータ2の表紙を使うか、1ページ目を表紙部分に繰り上げて使用すればよい。また、サンプルデータ2で専用紙を用いる場合は、もちろん表紙を外すこと。

 ページ配置は以下の通り。黒線が用紙であり、横書きレイアウトであれば左開きに折る。なお、式次第専用紙も左開き用である。



 なお、聖書は選ばれる箇所によって長さが違い、また故人略歴などもそれぞれであるから、ページ配置は必ずしもこれによらない。後述する讃美歌楽譜を挟み込む都合などで変わる場合もある。
 ページ数の都合によっては文字サイズを部分的に小さくしたり、行間を詰めたりして対応する必要があるが、単純に挟み込む枚数を増やしたり、表紙を削って1ページ確保するなどの方法も柔軟に検討されたし。

▽ 式内容の順序

 サンプルデータの式順は、2006年に日本キリスト教団出版局が発行した「日本基督教団 式文(試用版)」の「葬式A」「葬式B」にそれぞれ対応している。ただし、実際の式順や内容は教会やその葬儀によって異なるので、牧師の指示に従って書き換える必要がある。
 クリスチャンでない諸氏は二つの式順の差と言われてもピンとこないであろうが、「葬式A」は葬式も主日礼拝の形式にできるだけ近づけることを目指しているため、「聖餐」「信仰告白」などが入っているのが特徴である。そのため、式次第も「葬送礼拝」と「告別の時」をブロック分けしておいた。「葬式B」は従前の式文の内容を受け継いだものであるが、日本における葬儀の実際に即して形作られたものであるため、まだ当面はこちらに近いものが用いられることが多いと予想される。

▽ 表紙

 表紙を作る場合には、掲載する情報はタイトル・日時・式場程度で十分だが、余白が気になるようであれば百合や十字架のカットなどを入れることもある。
 専用紙は表紙部に写真が印刷されているが、下部に帯状の余白が設けられているものもあり、そこに上記の情報を掲載することもある。

▽ 式順のページ

タイトル
 故人の氏名はフルネームで書く。氏名の前に「故」を付けるかどうか、また後に「兄・姉」などを付けるかどうかはそれぞれの教会による。
※ 少なくとも、仏式などに見られる氏名の後に「儀」を付ける書き方は好まれない。
 また、葬式の名称も教会による。サンプルでは「葬儀告別式」としたが、「葬儀式」「告別式」「葬送式」などさまざまな可能性がある。なお、式場表看板(めいき)を立てる場合には表記を合わせること。

司会者・司式者・奏楽者
 サンプルデータでは、葬式の進行をする者(a)を「司会者」、説教など礼典の主要部を司る者(b)を「司式者」、奏楽をする者を「奏楽者」と表記したが、教会によっては(a)と(b)を一人の牧師が担う場合や、(a)を「司式者」、(b)を「説教者」と呼ぶ場合もあるので注意が必要。
 また、氏名の前に肩書き(○○○○教会牧師、伝道師、役員、執事、長老、オルガニストなど)を付ける場合もある。

式順と詳細情報
 式順・項目名はともにそれぞれの教会によって異なる。また、聖書や讃美歌の内容はそれぞれの葬儀によって異なる。司会者・司式者などの別は前項を参照。
 サンプルデータの「さんびか」の漢字は式文の表記に合わせて「賛美歌」としたが、書籍の表記としては「讃美歌」であるため、どちらを用いるかは牧師に確認すること。単に「賛美」と表記する場合もある。

▽ 聖書の引用

 聖書を引用する際は、「出典を明記する」「内容を変更しない」の2点をルールとして守らなければならない。(日本聖書協会ルール。他からの出版の場合は要確認)
 出典情報は、
◇ 出版 … 日本聖書協会 など
◇ 書籍名 … 聖書、新約聖書、旧約聖書 など
◇ 訳 … 新共同訳、口語訳 など
◇ 書名 … マタイによる福音書、ローマの信徒への手紙、詩編 など
◇ 章・節 … 8章38〜39節、詩編の場合は23編(篇) など
※ 聖書のうち「詩編」のみ、「○章」ではなく「○編」あるいは「○篇」と言う。これは、ほかの書で章にあたる範囲がそれぞれ独立した詩文であり、それらを編集しているため。「篇」が本来の字だが、最近では代用字の「編」を使うことも多く、今回出典とした新共同訳の交読詩編でも前書きで「編」をつかっているため、サンプルデータもそれに準じた。
を記載する。
 ひとくちに聖書といってもいくつも種類があり、それぞれに表現が違うため、どの聖書から引用するのかは牧師に確認すること。交読詩編についても同様である。

▽ 讃美歌の楽譜

 式次第には讃美歌の楽譜を別刷り(コピー)して挟み込むことが多い。しかし、実はこのことは慎重に扱う必要がある。というのも、正式なルールとしては楽曲・歌詞それぞれについて著作権使用申請を行い、使用料を払わなければならないのである。
※ その理由から、サンプルデータには讃美歌を含めていない。
 これは、葬儀社が印刷しても教会が印刷しても同じであるが、(大きな声では言えないが)実際的には教会に置かれている讃美歌の冊数程度ならば大目に見てくれているという現状もある。
 ここでルール違反を奨励することはできないが、少なくとも、印刷部数が多いならば積極的に申請する方がよいとは言える。

日本キリスト教団出版局出版「讃美歌」「讃美歌21」などについての著作権使用申請は下記へ
◇ 日本キリスト教団出版局 TEL 03-3204-0421(代)
ほかからの出版物に関してはそれぞれの出版元に確認のこと。

 讃美歌集にも聖書と同じくいくつもの種類があるので、どの歌集を使用するかは牧師に確認すること。特に、日本基督教団以外の教団では独自編集の讃美歌を使用していることも多い。
 また、番号やタイトルの後に「(故人愛唱)」などと表記する場合もある。

▽ 故人略歴

 故人略歴もそれぞれの葬儀によって載せたり載せなかったりである。表記についても特に専門的な注意はない。

▽ おわりに

 以上、大まかではあるが式次第作成時の参考にしていただければ幸いである。
 最後にひとつ。ここで述べてきたように、式次第のレイアウトや内容は教会によってさまざまであるから、その時になってイチから作ろうとすれば葬儀社も校正する牧師も大変である。可能であれば、日頃から施行の可能性がある教会の牧師とアウトラインを相談しておいたり、聖書や歌集を確認しておいた方がよいだろう。


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